シェルスクリプトマガジン

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香川大学SLPからお届け!(vol.45掲載)

投稿日:2017.06.27 | カテゴリー: コード

著者:辻健人(香川大学SLP)

年末なので設定ファイルやスクリプトを大掃除する

早いことにもう年の瀬、大掃除の季節です。そこで、今回のテーマは「大掃除」。部屋だけではなく設定ファイルである.zshrcや.bashrc、普段使っているスクリプトの掃除もしてしまいたい!ということで、設定ファイルの掃除方法を紹介していきたいと思います

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40歳から始める、オレとRubyプログラミング(vol.45掲載)

投稿日:2017.06.27 | カテゴリー: コード

著者:しょっさん

1月号ではありますが、この号が出る頃はちょうどクリスマス。一息ついて、年末の忙しい時期に入っていく頃でしょうか。年末は大晦日まで大掃除に明け暮れて、正月の三が日はこれ以上ないほどにゆっくり過ごすことが、我が家の慣例です。年初からお仕事のないみなさまは、場所はちがえど、三が日の過ごし方は同じようなものでしょう。お雑煮とおせちをいただきながら、2017年に想いをはせつ
つ、さぁプログラミングしましょう!!

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ユニケージ開発手法 コードレビュー vol.34(本誌vol.45掲載)

投稿日:2017.06.27 | カテゴリー: コード

著者:大内智明

今回は、 マスタの中でも重要な店舗商品マスタについて説明します。

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POSIX原理主義の一時的書類(テンポラリーファイル)(vol.45掲載)

投稿日:2017.06.27 | カテゴリー: コード

著者:シェルスクリプトマガジン編集部 松浦智之

会議室にはホワイトボードがあり、机の傍らにはメモ用紙がある。人はそこに、図や文字を書いたり消したりを繰り返すことで、考えを整理する。なぜなら人は、短期記憶の領域が狭いため、考察対象となる物事はホワイトボードや紙等に書き出しておかないと処理しきれないからだ。
そこは、人が創り出したコンピューターも似ている。一定以上の情報はCPU上に置いておけないため、メモリに変数という形で書き出し、それより大きいものはディスクにファイルという形で書き出しながら処理をする。特にUNIX では、ファイルを活用すると上手くいくようにデザインされている。
ところが、POSIX にはその、ホワイトボードやメモ用紙に相当する一時ファイル(テンポラリーファイル)を作るコマンドがない。何も考えずもちろん作るだけなら簡単なのだが、セキュリティーを確保しながら作るには一工夫がいる。今回は、一時ファイル作成時に必要なセキュリティーについて学び、これをPOSIXで実現する。

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mktempコマンドをPOSIX原理主義で書き直したものを作りました。
https://github.com/ShellShoccar-jpn/misc-tools/blob/master/mktemp

機械学習で石川啄木を蘇らせる(vol.45掲載)

投稿日:2017.06.27 | カテゴリー: コード

written by 高橋光輝

本連載のもとになった同人誌の内容は、以下のURLから閲覧が可能です。(編集部)
https://sunpro.io/c89/pub/hakatashi/introduction

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漢のUNIX ライブラリをつくってみよう! #その2(vol.45掲載)

投稿日:2017.06.27 | カテゴリー: コード

著者:後藤大地

C言語は、その誕生以来長きにわたって使われ続けているプログラミング言語だ。Javaが登場してからは第1人気をJavaに譲っているものの、それでも登場から今日までの長きに渡って使われ、さらにこれほど人気を保ち続けているプログラミング言語は他にない。
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ITエンジニアのためのマーケティング入門 第22回 (vol.45掲載)

投稿日:2017.06.13 | カテゴリー: 記事

Written by 水間 丈博

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おか爺:昔システム会社の役員をやっていたらしい。好奇心旺盛で意外とモノ知り。趣味は音楽(クラシックからJPOPまで!)と囲碁(有段者)。ちょっとした丘の上に住んでいるので「おか爺」と呼ばれている。やや奇怪な老人。

タケシ:工業大学でITを学び、小さなIT会社に就職したITエンジニアの卵。社長に「マーケティングを学んでおけ」と言われている。近くにある母方の祖父、おか爺の家に時々遊びに行く。趣味はサイクリング。まだ彼女はいない。

カンナ:タケシの後輩。大学では文学部で日本史を学ぶ。会社では広報部に配属された。

第22回 マーケティングの実践 – その10-

前回までのあらすじ

エンジニアのタケシは、社長からマーケティングを学ぶように言われ、近くに住む祖父「おか爺」の家に通い、マーケティングについていろいろ知識を吸収しています。マーケティングの基本について一通り学び終え、これから会社の後輩カンナちゃんと一緒にマーケティングの実践方法を学んで行こうと考えています。今回は「顧客経験価値マーケティング」のお話が始まります。

今日は「顧客経験価値マーケティング」の話をしてみよう。
「顧客経験価値」って、ときどき聞くけどどういうモノなの?
顧客経験価値は英語の「カスタマー・エクスペリエンス(Customer Experience)」という言葉を使う方が多いの。最近は略して…。
「CX」ですねっ!
おぉ、カンナちゃんさすがじゃな。その通り!とりわけIT業界は何でも略すのが得意じゃからのー。顧客経験価値マーケティングは「CXM」とかいわれておる。さてこのCX、定義が正確には固まっていないんじゃが、「製品やサービスそのものの持つ物質的・金銭的な価値ではなく、その利用経験を通じて得られる効果や感動、満足感といった心理的・感覚的な価値」と説明されておる※1。

※1 出典:「マーケティング用語集」SPI http://www.spi-consultants.com/ja/terms/archives/customer-experience.php

商品やサービスを売って「ありがとう」でおしまいじゃなくて、それで本当に満足してもらっているかってところに着目してるんだね?
そうなんじゃ。顧客が購買するモノやサービスに対しては、「製品自体の機能や性能、顧客が期待する利便性に対する対価(価値)」と長い間考えられてきたわけなんじゃが、よく引合いに出される「東京ディズニーランド/ディズニーシー」や北海道「旭山動物園」などの大成功にマーケティング関係者が触発されたこともあり、「製品・サービスを通じて顧客が得る“経験的ベネフィット”や心地良さを含めた価値こそが“トータルな価値”であり、競合から抜きんでる理由である」とする考え方が広まってきたんじゃよ。
感動の体験は「おカネに代えられない」って言いますからね。
それそれっ!“Priceless”とか“お金で買えない価値がある。買えるものはマスターカードで”というCMがヒットしたクレジットカードのMasterCardは、これでかなりシェアを挽回したんじゃよ。「経験価値マーケティング」が注目され始めたのは、ちょうどこのCMが流れ始めたころなんじゃ。
そのCM憶えてる!そんなに古い話じゃないんだね?
そうなんじゃ。「顧客経験価値」の考え方を広めたのは、アメリカの経営学者バーンド・H・シュミットが1999年に著した「顧客経験価値マーケティング」が最初と言われておる※2。

※2 “Experiential Marketing : How to Get Customers to Sense, Feel, Think, Act, and Relate to Your Company and Brands”(邦訳版:『顧客経験価値マーケティング』ダイヤモンド社 2004年)

どうして「顧客経験のマーケティング」に思い至ったのかしら?
1980年代に登場した、顧客とのインタラクションに着目した「リレーションシップ・マーケティング」に源流があるんじゃ。これをITで支援しようとしたものが「CRM(顧客関係管理)」なんじゃよ。
CRMパッケージは今でも使っている会社があるよね?
アメリカでCRMが登場した1990年代後半当時には、一人一人の顧客である「個客」に焦点を当てた「One to One マーケティング」が全盛だったこともあって、CRMは大流行したんじゃ。
そうだったんだー。
しかし、当初のCRMは、マーケティング支援ではなく「顧客情報管理」の延長上にあったために「カスタマーセンター」「ダイレクトコール(電話勧誘)」「ダイレクトメール」など「個々の顧客に到達し販売機会を増やすこと」に重点が置かれ過ぎてしまい、急速に廃れてしまったんじゃ。「データベース・マーケティング」とかもそうじゃな。しかし、現在の基礎を形作ったともいえるんじゃよ。
結局「押し売り」になっちゃったんだね?
カード会社などが「新規顧客獲得コストよりも既存顧客維持コストの方が圧倒的に安い!」なんて発表したものだから、既存顧客向けに顧客満足度を上げようとする動きが度を越したんじゃな。
そういえば最近ダイレクトメールがめっきり少なくなったよね?
そうした動きを見たシュミット先生は「CRMはけしからん!」と怒ってこの本を書いたわけじゃな。
「販売志向」から抜け出せていないってことなんですね?
そうじゃ。「顧客経験価値(CXM)」の考え方は何もコンシューマの世界だけではなくて、BtoBの世界でも重要じゃから、覚えておくと良いじゃろ。BtoBでも、製品やサービスを選ぶのはあくまで個人や個人の集合じゃからの。
そう!ウチの部長は感情的な価値偏重だよねー!?
フッフッ。そうよね、「好きか嫌いか」でしか判断しないのよね!
そういった選好性は「情緒的価値」になるんじゃろうな。それでまず、シュミット先生は「経験価値」を5つに分類してみたんじゃ。
どんなふうにですか?
感覚的経験、情緒的経験、認知的経験、行動的経験そして社会的経験の5つじゃ。整理するとこんな内容なんじゃよ(表1)。想像しやすいように具体例を入れてみたんじゃが、なんとなくでもよいから理解してもらえるかの?
ナルホド、あるあるだねー。ところで、この「AMEXセンチュリオンカード」って何?
通称「ブラックカード」のことじゃよ。
知ってます!世界のセレブしか持てないっていうカードですね。

表1:顧客経験価値5つの分類

事例39:AMEXセンチュリオンカード

米国カード会社「アメリカン・エクスプレス センチュリオンカード(American Express Centurion Card)」の黒色はカードとしては独特だ(現在は他社も追随している)。顧客はチタン製のカードを選ぶこともできるという。AMEXでは以前から富裕層をターゲットとした「ゴールド・カード」が存在し、高度なサービスを求める顧客から好評を博しビジネスとして成功を収めていた。しかし、競合他社が相次いで「ゴールドカード」を発行するに及び、そのステータスの高さを維持することが困難になっていった。そこでAMEXは1984年に更に上位の「プラチナカード」を発行する。しかしこれも他社に追随されていく。ステータスの高い富裕層を強力に囲い込むため、1999年に「センチュリオン・カード」を発行、高額の年会費で他社を振り切る戦略に出た。通称「ブラックカード」と呼ばれるこのカードは、一切宣伝広告をせず、選ばれた最重要顧客だけが密かに「招待キット」を受け取る。そのサービスは群を抜いており、専任コンシェルジュに世界中からコレクトコールで電話が可能、誕生日にプレゼントが届く、ブランドショップの閉店後に特別にプライベートショッピングが可能など、そのステータスに見合ったサービスが受けられる。現在日本では入会金54万円、年会費は37.8万円といわれている。
出典:Wikipedia「アメリカン・エキスプレス・センチュリオン・カード」
会費37万円?!
格差社会の象徴のようで、ちょっと引いちゃうわね。
ワシも想像はつかんぞな…昔はゴールドカードに憧れていた時期もあったんじゃがのー、ハッハ。
 「行動的経験(ACT)」といえば、「嵐」のコンサートチケットがヤフオクで高額で取引されてるってニュースで見たわね。
最近音楽CDが売れなくなっているといわれておるが、逆にライブはここ6~7年の間に売上も入場者数も急激に増えておるんじゃよ。2015年はMr.Childrenが約112万人を動員してトップ、2016年はまだ統計が出ていないが、今のところ韓流のBIGBANGがトップらしい※3。

※3 出典:「1位はミスチル コンサート動員力ランキング」日経エンターテイメント 
http://style.nikkei.com/article/DGXMZO94721470T01C15A2000000?channel=DF280120166614

図2:ライブ入場者数推移表※4

※4 出典:「一般社団法人コンサートプロモーターズ協会」 http://www.acpc.or.jp/marketing/transition/

CDよりもやっぱりライブがサイコーだよねー!
タケシさん、そういえば「ももクロ」のライブはどうだったの?
えーっ!なんで知ってんのーっ?!
おっと、その「ももいろクローバーZ」は2016年上半期では2位だったらしいぞな。惜しかったのう!
しらんわ!
フフッ!
経験価値の重要性はもう体験済みなわけじゃな。さて、本題に戻るぞな。この5つの経験価値はもちろん相互に排他的なものではなくて、複数の経験価値を同時に満たしているような場合もあるから、そう厳密に考える必要はないんじゃよ。例えばこんなイメージじゃな。

図3:シュミットの5つの経験価値
そういえば、東京ディズニーシーは絶叫に近いアトラクションもあるし、年間パスを持ってると友達に自慢できるから、「Feel」、「Act」、「Relate」を同時に満たしているかもしれないよね?
そうなんじゃ、タケシ。珍しくサエておるなー。
またまたっ、それ止めてよ!
シュミット先生は「顧客経験価値マーケティング」で顧客経験価値を体系的に分析し、次の著作の「経験価値マネジメント」の中で経験価値をマネジメントすることに挑んでおる。これを略して「CEM(Customer Experience Management)」と呼んでおるんじゃが、その中で「3つの間違ったアプローチ」として「マーケティング・コンセプト」、「顧客満足」、「CRM」を挙げておるんじゃ。
3つの間違い、ですか?
それぞれについて次のように断罪しておるんじゃ。

1.「マーケティング・コンセプト」:
顧客指向と言いながら製品中心の見方から脱しきれていない。
2.「顧客満足」:
消費者の製品やサービスにまつわるすべての経験まで考慮されていない。
3.「CRM」:
取引に焦点があてられ、顧客との情緒的つながりが無視されている。
なんか、今まで“追求することが良いこと”って教えられてきたモノのような気もするわね?
その通り!「マーケティング・コンセプト」の提唱者で、以前に紹介したこともあるマーケティングの大家、P.コトラー先生を暗に批判しておるんじゃな。
へーっ、そうなのか。いろいろあるんだねー。
次回は「経験価値マネジメント」のフレームワークという話をしてみようかの。
面白くなってきましたね!
(つづく)

ITエンジニアのためのマーケティング入門 第18回 (vol.41掲載)

投稿日:2017.06.13 | カテゴリー: 記事

Written by 水間 丈博

本記事掲載のシェルスクリプトマガジンvol.41は以下リンク先でご購入できます。

おか爺:昔システム会社の役員をやっていたらしい。好奇心旺盛で意外とモノ知り。趣味は音楽(クラシックからJPOPまで!)と囲碁(有段者)。ちょっとした丘の上に住んでいるので「おか爺」と呼ばれている。やや奇怪な老人。

タケシ:工業大学でITを学び、小さなIT会社に就職したITエンジニアの卵。社長に「マーケティングを学んでおけ」と言われている。近くにある母方の祖父、おか爺の家に時々遊びに行く。趣味はサイクリング。まだ彼女はいない。

カンナ:タケシの後輩。大学では文学部で日本史を学ぶ。会社では広報部に配属された。

第18回 マーケティングの実践 – その6-

前回までのあらすじ

エンジニアのタケシは、社長からマーケティングを学ぶように言われ、近くに住む祖父「おか爺」の家に通い、マーケティングについていろいろ知識を吸収しています。マーケティングの基本について一通り学び終え、これから会社の後輩カンナちゃんと一緒にマーケティングの実践方法を学んで行こうと考えています。今回は「グローバル・マーケティング」のお話です。

今日はグローバルマーケティングの話をするかの。
グローバルってことは、海外でマーケティングをするってことだね?
進出先の言葉や文化を知らなくてはいけないから、国内よりはハードルが高くなるわね。
そうなんじゃ。国内市場の規模が十分にあれば、わざわざ国外に出ていく必要はないんじゃ。例えば次のようなリスクが大きいからなんじゃな。
うーん、最低限英語ができないといけないしボクには無理だなー。
そんな根性なしではいかんぞな。今やいつ海外に行くことになるかもわからん!次に挙げたような理由から、日本企業も海外進出の必要性が高まっているんじゃぞ!

・人口減で国内市場が飽和または縮小傾向にある

・経済が低成長で大きな利益をあげることが難しい

・低コストで国内製造することが難しい

・取引先や親会社が海外に進出する
でも日本の良い製品を歓迎してくれる世界の人も多いから、世界に出るって良いことなんじゃないかしら。
そうじゃな。海外に企業が出て稼いでもらわないと日本も外貨が獲得できん。じゃが、海外進出するからには、当然しっかりとしたマーケティング戦略をもって進出することが望ましい。
3C(競合、顧客、自社)とか、4P(製品、価格、流通、販促)を海外に置き換えて考えてみるだけでもスゴク難しそうだね。
その通りじゃ。「グローバルマーケティング」という概念は1990年代になって生まれたといわれていて、実は大変新しい言葉なんじゃ。それまでは多国籍企業で実施されているマーケティングが「国際マーケティング」と呼ばれていて、国境を越えて存立させた海外子会社(R&D、生産、物流、販売会社など)を組織化して、原材料の調達と生産のコスト低減、効率的な物流、大量消費地などを勘案して実施されていたのが手本だったんじゃな。
少しずつ海外に製品を持って行って、経験を蓄積してきたんですね。
ただ、初期のグローバルマーケティングは失敗も多かったんじゃ。これを見てみるがよい。

事例30:初期グローバルマーケティングの失敗例

以下の失敗例の原因は何だったか想像してみよう。
①コカコーラは、スペイン市場に「2リットルボトル」を導入したが、当初失敗に終わった。
②プロクター&ギャンブル(P&G)は、歯磨き粉「クレスト」をメキシコ市場に投入したがあまり売れず失敗した。
③S.C.ジョンソンは、日本に床磨き用ワックスを導入したが、当初まったく売れなかった。

出典 ?『マーケティング・マネジメント』
ミレニアム版 フィリップ・コトラー著
ピアソン・エデュケーション

コカコーラの2リットルボトルって、今でもあるよね?なんでだろ。重いものを持ちたくなかったのかな?
歯磨き粉は…甘くて受けなかったのかしら?床用ワックスは…日本の気候に合わなかったとか?
正解はこれじゃ。

<正解>
①2リットルのボトルが入るほど大きな冷蔵庫を持っているスペイン人がほとんどいなかった。
②メキシコ人はそれほど虫歯予防に気を使っておらず科学的な説明をされてもあまり理解しなかった。
③日本人は家の中で靴を履かないことを見落としていた。

えーっ?!こんな理由なの?
フフフッ。これ可笑しいわね!
ハハハ。おもしろいのう。しかしこうした昔の失敗からもいろいろ教訓を得ることはできるじゃろ。それぞれ直接的には①ボトルの保冷手段②国民の保健意識③居住空間の違い、に思いが行き届かなかったのが失敗の要因だったわけじゃが、それは進出国の生活習慣やライフスタイルをかなり深く探る必要性があるということなんじゃ。今でこそネットを使って海外事情を入手することは容易になってはいるが、特にコンシューマ製品の場合は気を付けなければならん。これには宗教的な要因なども大きいんじゃ。
自国では定評ある商品でも、外国ではどんな落とし穴があるかわからないよね。
日本でも古くから海外進出した企業はあるんじゃ。例えば誰もが知る味の素やキッコーマンはかなり以前から海外に進出して根付いておるんじゃが※1、失敗した例も数多くある。M&A(買収)の代表的な例を見てみようかの。
※1 「味の素」は1910年、当時日本領だった台湾に進出した。「キッコーマン」は1905年には朝鮮半島に工場を設立していたが、本格的なグローバル進出は1967年米国で生産開始したのが最初。

事例31:海外M&Aの失敗例

①NTTコミュニケーションズのベリオ社買収
NTTコミュニケーションズは、2000年に50億ドル(当時)の現金で米国ISP大手ベリオ社を買収した。ベリオ社はコロラド州で創業した小企業だったが、米国及びヨーロッパの小規模ISPを次々と買収し急激に成長していた。しかし買収直後、ネットバブル崩壊もあって急激に業績が悪化、わずか1年後には5000億円の減損損失を計上するに至った。
②第一三共のインド・ランバクシー買収
第一三共は2008年、インド製薬メーカー、ランバクシー社の株式を4900億円で買収した。しかし、その後米国FDA(食品医薬品局)から安全基準に疑義がかけられランバクシー製品が輸入禁止になってしまった。その結果2009年には3500億円の評価損を計上したほか、品質問題で巨額の米政府への和解金も発生した。経営陣を送り込むなど多大な人的投資を傾注したものの、その後主だった医薬品開発成果を上げられないまま、2015年にインド後発医薬品メーカーに3800億円で売却し終止符を打った。損失額よりも6年間におよぶ組織の疲弊と時間を失った代償の方が大きいといわれている。
③キリンホールディングスのスキンカリオール買収
キリンホールディングスは、2011年、ブラジル2位のビール会社スキンカリオールを3000億円で買収した。しかしその後創業者一族による経営権争いに巻き込まれたほか、圧倒的なシェア第1位のアンハインザー・ブッシュ・インベブ社に価格競争で敗れて低迷、ブラジル経済失速によるレアル下落もあって、1140億円もの特損を計上して上場以来初の最終赤字に陥ってしまった。スキンカリオール社の経営権争いは以前から業界内では有名で、同業他社が「意思決定に時間がかかる」と諦めていた現実を甘く見過ぎた失敗とみられている。
出典:『失敗? 成功? 巨額損失を計上したM&A10選』
M&A Online?https://maonline.jp/articles/kyogaku0066
『キリンが海外戦略で誤算、ブラジルのビール大手買収で泥沼』東洋経済Online?http://toyokeizai.net/articles/-/7937
いやー。難しいんだね!
ちょっとアンラッキーな面もあるけど、内部の調査が不十分なまま海外に巨額の投資をするのは怖いって思っちゃうわね。
確かに日頃厳しく経費を査定するのに、こうした大型案件に数千億円もポンと金を出すのは矛盾しておるのじゃが、それでも成功している企業も多いんじゃ。次回は成功の条件と事例を見ていくことにするかの。
(つづく)

【今回の用語まとめ】

グローバル・マーケティング:

世界全体を市場と捉え、国境を越えて言語、文化など様々な違いを吸収し事業を展開するためのマーケティングをいう。世界の市場へ適応するための「現地適合化」と「標準化」がキーポイントといわれる。世界市場を細分化した場合、個々の市場ニーズに応えるための人と組織、原材料調達、生産体制を最適化し、最も生産性やコストの有利な地域で生産し、販売可能な地域へ流通させるための経営戦略と密接に関係する。近年は世界的な規制緩和や様々な経済圏を通じて商品と情報のグローバル化が進み国際的M&Aが増加したことなどから、グローバル・マーケティングの重要性が高くなっている。

「グローバル・マーケティング」Wiki(英語版) https://en.wikipedia.org/wiki/Global_marketing

ITエンジニアのためのマーケティング入門 第21回 (vol.44掲載)

投稿日:2017.06.13 | カテゴリー: 記事

Written by 水間 丈博

本記事掲載のシェルスクリプトマガジンvol.44は以下リンク先でご購入できます。

おか爺:昔システム会社の役員をやっていたらしい。好奇心旺盛で意外とモノ知り。趣味は音楽(クラシックからJPOPまで!)と囲碁(有段者)。ちょっとした丘の上に住んでいるので「おか爺」と呼ばれている。やや奇怪な老人。

タケシ:工業大学でITを学び、小さなIT会社に就職したITエンジニアの卵。社長に「マーケティングを学んでおけ」と言われている。近くにある母方の祖父、おか爺の家に時々遊びに行く。趣味はサイクリング。まだ彼女はいない。

カンナ:タケシの後輩。大学では文学部で日本史を学ぶ。会社では広報部に配属された。

第21回 マーケティングの実践 – その9-

前回までのあらすじ

社長からマーケティングを学ぶように言われたエンジニアのタケシは、近くに住む祖父「おか爺」の家に通い、マーケティングについていろいろな知識を吸収しています。マーケティングの基本について一通り学び終え、会社の後輩カンナちゃんと一緒にこれからマーケティングの実践方法を学んで行こうと考えています。前回は「ブランド・マーケティング」のお話でした。今回はその続き「ブランド構築」のお話です。

前回までの話でブランドの意味とか効果とかは理解できたけど、実際にはどうすれば「ブランド構築」ができるのかな?
時間が掛かるにしても、適切な方法って何かあるのかしら?
ハハハ、今回のテーマはまさしくそこなんじゃ。ブランド構築には「正しいステップ」があるのじゃよ。
正しいステップ?
いろいろな考え方があるんじゃが、代表的なものを一つ紹介しよう。これはアメリカのK.ケラーという先生が提唱している「戦略的なブランドマネジメントのプロセス」というものじゃ(図1)。順に説明しよう。

図1 戦略的なブランドマネジメントのプロセス

STEP1 「ブランドポジショニングと価値」の定義と確立

ただ商品名やロゴ、シンボルを決めただけではブランドにはならんな?
そりゃそうだよね、誰も知らないんじゃブランドになんかならないもの。
お客さんが良いイメージを持ってくれて、はじめてブランドなんじゃないかしら?
そのとおり。「ブランドポジショニング」とは、お客さんが持つイメージぴったりに自社のブランドを正確に位置付けることなんじゃよ。これは他社との差別化要素を明確にすることにもなる。じゃから、そのために「市場における自社ブランドの価値と存在意義」を再確認する必要があるんじゃ。
ナルホド、それで「ポジショニング」なわけだ。
それができるのは誰じゃろ?
創業者や社長さんとかかしら?
そのとおり!じゃから、トップの責任で長期的な展望を決めないと、ブランド戦略は成立しないんじゃよ。マーケティング部門や広報部門だけではできない話じゃ。

STEP2 「ブランドマーケティングプログラム」の計画と実行

これは、ブランドの価値を広く市場やお客さんに、自信をもって伝えていく具体的な作業になる。
ここは、マーケティングの広報や宣伝の役割だよね?
まぁそうなんじゃが、前に言ったように“広告でブランドは作れない”。そこは忘れんようにな。
そうだったね、思い出した。
この作業には、お客さんにメッセージを伝えるキャッチフレーズやロゴの制作なども含まれる。それに、開発した商品の製品特性やバリエーションが、定義したブランド価値に合致しているのかを常にチェックすることも忘れてはいかんのじゃ。
お客さんに持ってもらうブランドイメージを損なわないように、注意するってことなのね。
さらに、社内にブランド価値を浸透させるための社員教育や組織作りもここに含まれるんじゃよ。
ブランド構築を実践していく中心は社員だから、全員がその価値を理解していることが必要なのね。
そして優れたブランドには3つの「一貫性」があるといわれておる。
3つの一貫性、ですか?
それは「時間経過に対する一貫性」、「商品相互間の一貫性」、「マーケティングミックスの一貫性」の3つじゃ。
3つもあるのか……ブランド構築って、やっぱり大変なんだな。
去年出した製品とまるで違うコンセプトの製品を同じブランドから出したら離反する客も出てくるじゃろ。それに、長く使い続けても大丈夫という安心感を裏切ってもいかん。それが「時間経過に対する一貫性」じゃ。
長く続く安心感か。そうか、うちの母さんも昔から変わらず虎屋のようかんと栄太郎飴が好きだからなぁ……。
爺:  「商品相互間の一貫性」は、違う商品でもブランド価値が同じであること、「マーケティングミックス」の一貫性は、商品、価格、販売チャネル、プロモーション全般にわたってブランド価値を矛盾なく体現させることなんじゃ。
そういえば、ポケモンGOのキャラクターって、どれもみんな可愛いよね!
オマエはそこか!

STEP3 「ブランドパフォーマンス」の測定と評価

これは、思い描いていた通りにブランドが市場やお客さんに受け止められているかをモニターするステップになるの。例えば、お客さんの声や評価を「お客様相談室」やネット上の評判で調べることができるな。
口コミだね?
クレーム対応で炎上したりしないよう気を遣うところね?
そういうことじゃな。ここで問題や課題が発見されたら、STEP1やSTEP2に戻って微調整するんじゃ。

STEP4 「ブランドエクイティ」の育成と維持

聞き慣れない言葉じゃが、「ブランドエクイティ」とは「ブランドの資産価値」という意味なんじゃ。ブランドが発展すること、すなわち支持してくれるお客さんが増えれば増えるほど、この資産価値が高まるわけじゃ。
資産価値って、お金に換算できるの?
そうじゃよ。前回もいくつか例を紹介したじゃろ。ブランド価値とは、要するに「のれん代」のことなんじゃ。
のれん代って言葉は、M&Aの時や海外企業買収で失敗した時なんかに出てくるよね?
それは「のれん償却」のことね?
そうじゃ、高いブランド価値をもつ企業は、その高い評価がM&Aの際の買収金額に反映されるんじゃよ。
そうだったのねー。
さて、自社のブランド構築のステップは見たが、今度はお客さんの視点から見たブランド発展の段階を見ていこう(図2)。

図2 ブランド・レゾナンス・ピラミッド
これまた、なんか難しい用語が出てきてるね!
これはケラー先生の「ブランド・エクイティ・ピラミッド」または「ブランド・レゾナンス・ピラミッド」という有名な図なんじゃが、「ブランド・レゾナンス」とは、お客さんが強烈にそのブランドを信奉していて、「絶対これ!」といったこだわりを持った状態のことを言うんじゃ。お客さんとブランドが同調している状態を「反響、余韻、共鳴」という意味のレゾナンスという言葉で表しているんじゃの。
うちのチームのヒロシくんは、家ではアップルのPC以外は買ったことないって言ってたなー。そういうヤツのことかー。
図の左の「ブランド開発のステージ」は、お客さんとブランドの関係がだんだん進化していく段階を示しているのね。
右側の「ブランディングの目標段階」は、お客さんのブランドに対するイメージの深さの段階なんだな。
そういうことじゃ。ではブランド構築の成功事例を見ることにしよう。

事例37 生活者視点から始まった無印良品のものづくり

無印良品は1980年に西友の一事業部門としてスタートした。当初から大切にしていたアイデンティティは「生活者視点に徹する」こと。既存メーカーの製品を並べて販売するのではなく、生活者視点で独自の商品を生み出そうという「逆転の発想:マーケットイン」のコンセプトが当初から「無印」には込められていた。そこから生まれた新商品の一つが真っ白な「生成りのふとん」。布団には様々な色・柄があるのが普通だが、実際使用する際にはカバーをかけることが多い。そこで中身の絵柄をつけずに消費者の好みやライフスタイルに合わせてカバーを選んでもらおうと製作した。これにより大幅なコスト削減が実現し、安く提供できるようになったが、当初はメーカーから反発された。デフォルトでは泥除けやライトが付いていない「パーツを選べる自転車」を発売した時もそうだった。無印良品はその後も姿勢を変えず、さらに徹底して顧客の意見を商品開発に反映させるため、2009年「くらしの良品研究所」を立ち上げた。
出典:「デジタル時代のブランド育成方法、無印良品が進める絆づくりとは?」Markezine 2014.7.11 http://markezine.jp/article/detail/20386

参考:「シェルスクリプトマガジン VOL.35」(2016年3月号)
当連載第12回[事例19]

そうか、当初のコンセプトを変えずに徹底する!っていう姿勢がブランド構築に繋がるのか。
無印良品は以前にも取り上げたことがあるのう。ブランドというと「古くからある」というイメージじゃが、ここはブランドとしては比較的新しいんじゃ。それでも国内312店舗、海外344店舗を持つ大チェーン店ネットワークに育っておる。
海外でも「MUJI」ブランドで有名なのよね。シンガポールやオーストラリアに行った時にも見つけたことある※3。
多少の反対や事件では「ぶれない」ということが肝心なんじゃの。もう一つ「ブランド・レゾナンス」を示したともいうべき著名な事例をあげておこう。

※3 出典:㈱良品計画 企業情報(2016年2月期)http://ryohin-keikaku.jp/corporate/

事例38:「サービスを超える瞬間」ザ・リッツ・カールトン

1997年に日本進出した「ザ・リッツ・カールトン」は世界のホテルランキングでも上位を維持している。その卓越したサービスが「感動」を産んだエピソードは数多い。“彼女に結婚を申し込むつもりでホテルスタッフに「ビーチチェアを用意しておいて下さい」と頼んだら、椅子の前に男性が膝をついても汚れないようにタオルを敷き、白いテーブルクロスを敷いたテーブルの上に花束とシャンパンを置き、タキシードを着てお客様を待っていた”とか、“宿泊予定で荷物も送っていた老夫婦の自宅に強盗が入りそうになり、宿泊を急遽キャンセル。幸い問題は無かったが、その夜リッツから夫婦に荷物が届き、中を開けてみると焼きたてのクッキーとグラス、シャンパンと共にバスローブが二枚……「結婚三十周年おめでとうございます。お二人の力になればと思い、お祝いをお届けします。」とメッセージが添えられていた”とか。
「サービスを超える瞬間」を著した元日本支社長の高野登氏は、「サービスによって満足は伝わるが“感動”は伝わらない」と語る。その“感動を伝える”従業員はサービスの基本精神が書かれている「クレド(credo)」というカードを常に携帯している。また、従業員自らの判断で1日2,000米ドルまでの決裁権が認められている。
従業員を採用する際にも、ザ・リッツ・カールトン独自の人材採用システムを用いている。経歴や経験ではなく素質を重視した面接を行うため、採用までに長期に渡って時間をかける。これは、ザ・リッツ・カールトンの社風などをきちんと理解できた人が入社するというメリットがある反面、アルバイト・契約社員を採用する際も同じ面接を行うのでコストが掛かりすぎるデメリットもある。リッツ・カールトンは自らを取り巻く社会を3つの層で捉えている。「社員とその家族」が最も重要で、次に「パートナーとその家族」、最後に「お客様」なのだ。高野氏はこう語る。「「ザ・リッツ・カールトンは、お客様にわくわく感動してもらいたいと常に願っています。ただ、お客様の感動というものは、社員が働く中で抱く感動を超えることはないと考えています。そのため、このような優先順位となっているのです。」


出典:「リッツ・カールトンが大切にするサービスを超える瞬間」高野登著 かんき出版

出典:「サービスを超える瞬間」の実現──ザ・リッツ・カールトンの経営理念と哲学」ITmediaエグゼクティブ (2011.2.8)

これ、なんかナットクしちゃうなー。「感動して働ける社員だけが感動を届けられる」って話だね。
爺: 「お客様第一」を掲げる会社は多いが、実際はそうでないことが多いからのう。従業員を第一に考えた上で“顧客への感動を届ける”を徹底して実践している姿勢は見事じゃの。
もしかして、“従業員が満足していなければブランドは構築できない”ってことなのかしら?
カンナちゃん、そのとおりなんじゃよ。ブランドを継続的に育成するためには社員が誇りを持って働ける環境づくりが重要なんじゃ。ブラック企業にブランドは定着せん。例えば、次のようなミッションを行動規範として全社員や関係者に徹底させると良いのじゃ※4。このような行動規範を明示すると同時に、従業員の待遇を改善しパートナーと捉えることによって、業務遂行の意欲を向上させることが、ブランド育成には有効なんじゃよ。

1.社員は互いに尊敬し合う。
2. 多様性を受け容れる
3. 最高のレベルを目指す
4.顧客が心から満足する製品を提供する
5.地域と環境を守る
6.利益を上げることは社会に貢献することでもある

難しそうだけど、大切なことだよね。
ブランド構築の奥深さが理解できました!
そうか、それは良かった。では、次回はブランドと関係のある「顧客経験価値マーケティング」に進んでいくかの。
またまた楽しみにしてるよ!

※4 出典:「ビジネスQ&A J-Net21 http://j-net21.smrj.go.jp/well/qa/entry/314.html
(つづく)

※図1, 図2 出典:Keller, Kevin Lane(2013), Strategic Brand Management: Building, Measuring, and Managing Brand Equity. 4th ed. Upper Saddle River, NJ: Pearson /Prentice Hall.(翻訳:筆者)

ITエンジニアのためのマーケティング入門 第16回 (vol.39掲載)

投稿日:2017.06.6 | カテゴリー: 記事

Written by 水間 丈博

本記事掲載のシェルスクリプトマガジンvol.39は以下リンク先でご購入できます。

おか爺:昔システム会社の役員をやっていたらしい。好奇心旺盛で意外とモノ知り。趣味は音楽(クラシックからJPOPまで!)と囲碁(有段者)。ちょっとした丘の上に住んでいるので「おか爺」と呼ばれている。やや奇怪な老人。

タケシ:工業大学でITを学び、小さなIT会社に就職したITエンジニアの卵。社長に「マーケティングを学んでおけ」と言われている。近くにある母方の祖父、おか爺の家に時々遊びに行く。趣味はサイクリング。まだ彼女はいない。

カンナ:タケシの後輩。大学では文学部で日本史を学ぶ。会社では広報部に配属された。

第16回 マーケティングの実践 – その4 –

前回までのあらすじ

エンジニアのタケシは、社長からマーケティングを学ぶように言われ、近くに住む祖父「おか爺」の家に通い、マーケティングについていろいろ知識を吸収しています。マーケティングの基本について一通り学び終え、これから会社の後輩カンナちゃんと一緒にマーケティングの実践方法を学んでいこうと考えています。前回は「ファネルマーケティング」の話でしたが、今回は「競合優位追求型マーケティング」のお話です。

今日は「競合優位のマーケティング」の話をするかの。
競合優位って、ライバルがたくさんいる中で抜きんでることだよね。
その競合優位ってなんじゃろか?
ライバルの品物より品質が良い、価格が安い、性能が良いとかでしょ?
そんなふうに誰もが思っている場合にシェアが大きくなって競合優位になるんじゃないの?
カンナちゃん、それは良いところに気付いたの。“だれもが思っている”というところが肝心なんじゃ。競合優位性を簡単な絵にすると、このようになる(図1)。

図1

1つはコスト優位性じゃ。コストが低ければ安く市場に供給できる。安さは誰でも魅力じゃからの。もう1つは差別化優位性じゃ。「差別化」と括ってしまったが、この中にはいろいろある。
性能や品質とかデザインとかだよね。4Pの時に習ったよー。
そうじゃ。おいそれとライバルが真似しにくい特性を数多く持つことが肝心なんじゃ。
時間をかけて技術を磨いてきた企業が結局競合優位になりえる、って聞いたことがあるわ。
そうじゃ。ではまず競争戦略の基本をおさらいしてみるか。
マーケティングじゃなくて戦略の話なの?
タケシや。マーケティングを考えるときに登場する主体は何じゃった?
えーと、市場のお客さんと、自社と競合の3Cだったよね?
そうじゃ。競争戦略に登場するのも実はいっしょじゃ。じゃから競争戦略はマーケティング戦略に包含されるともいえるんじゃ!
えーっ?それ反対じゃないの?
それはどちらでも良いのじゃ!
マーケティングはマネジメントそのものっていう意味なのかしら?
カンナちゃん、ビンゴじゃ!マーケティングの大家、P.コトラーは、“競争優位という概念はM.ポーターが提唱した。しかし、マーケティングは昔から競争を意識してきた。顧客を獲得する、顧客を維持するというのは、競争するという事と同じ意味だ。競争を優勢に進めるためには、必然的に他との違いを強調する。つまり競争優位を実現し演出する。”といっておるぞよ※1

※1 出典:「コトラーのマーケティング戦略 最強の顧客満足経営をキーワードで読み解く」多田正行 PHP。?https://www.php.co.jp/books/detail.php?isbn=4-569-63636-5

お客さんを獲得し続けることが会社を発展させるためには必要ってことね?
これが米国のポーターという経営学の大先生が提示した競争基本戦略の絵じゃ(図2)。どこかで見たことがあるじゃろ。表1は図2の意味じゃ。

図2

表1 出典:M.E.ポーター『競争の戦略』ダイヤモンド社

なるほど、集中戦略が低コストと特異性の両方をカバーしているっていう意味がわかったよ。
②と③は大きな市場シェアを狙いに行かない(シェアを諦める)代わりに非価格競争に持ち込める、という点が大きなメリットであることを見逃さぬようにな。
勝算の不確かな低コストの追求ではなくて、特徴を磨くことで活路を見出しているのね。
そういうことじゃ。これは今でも通用する基本的な原則といえるんじゃが、かなり前の文献じゃから、現実に合わなくなってきた面もあるんじゃ。さて、日本の実態はどうなっておるかの? 表2に整理してみたが、日本はやはり「集中化戦略」の得意な企業が多いようじゃの。

表2 日本企業の競争基本戦略

トヨタやホンダはわかるけど、そんなに世界的な企業が多いの?
バカもん!これを見てみよ!

事例26:世界シェアトップの日本企業まとめ

日本には世界シェアトップの企業が数多く存在する。ソニー(ビデオカメラ)、ミネベア(小型ベアリング)、日亜化学(白色LED)、JUKI(工業用ミシン)、日本精機(2輪車用計器)、日東電工(液晶用光学フィルム)、日立金属(高機能ネオジム磁石)、ホンダ(自動二輪)、ナブテスコ(産業用精密減速機)、日本セラミック(赤外線センサー)、SHOEI(高級ヘルメット)、マブチモーター(小型モーター)、任天堂(ゲーム機)、ワコム(ペンタブ)、ディスコ(半導体切削機)、シマノ(自転車部品)、村田製作所(セラミックコンデンサ)、浜松ホトニクス(光電子増倍管)、ファナック(工作機械用NC)、日本電産(精密小型モーター)、信越化学工業(半導体シリコンウエハ)、日本ガイシ(碍子)…
以上すべて世界シェア一位企業である。トヨタも2015年生産台数世界一に返り咲いた。
このように産業用素材や加工機械、計測機器などが多く、細かくて精密な分野は日本人の気質にマッチしているらしい。ホンダや任天堂などコンシューマ企業もあるが、その多くは歴史あるBtoB企業という点も興味深い。
出典「国内/世界シェア1位企業」NAVERまとめ http://matome.naver.jp/odai/2133603554882742001
参考「隠れた日本企業のチカラ」Nikkei http://vdata.nikkei.com/prj2/ft-jpglobal-c

こちらも世界シェア1位企業一覧。ニッチの宝庫。大多数の企業は大企業ではなく、一般的知名度も高くない。しかし定評ある日本の工業製品力はこうした企業が支えている。

へーっ!結構たくさんあるんだね。知らない会社ばかりだけど、ボクが乗ってるロードバイクの変速機はシマノ製だよ!確かに世界中のスポーツ車の変速機はだいたいシマノのパーツがついてるんだよなぁ。やっぱ、世界一なのか…。
お得意の自転車の話じゃな?ハッハ。
そう言えば、ノーベル物理学賞を受賞した小柴先生や梶田先生のニュートリノの業績も、スーパーカミオカンデに設置されている浜松ホトニクスの光電管が貢献しているってニュースで見たことあるわ。
この例で挙げた以外にもまだまだたくさんあるんじゃ。さて、こうした世界的なシェアを確保した企業は、ニッチではあるがその分野のリーダー企業なんじゃ。じゃから、こうした企業のマーケティングは自然と2つの方向に向かうことになる。
2つの方向?
1つはシェアの維持と拡大、もう1つは市場の拡大じゃ。
やっぱりそうなるんだよね、簡単ではなさそうだけど。
その通りじゃ。かなり有名な事例じゃが、格好の題材があるぞよ。

事例27:ゼロからのスタートでシェア20%

格安海外航空券で一世を風靡し、今や国内外旅行会社の大手となったH.I.S。創業は1980年で運輸大臣の認可を受けられたのはその翌年だった。H.I.Sの取締役だった大野尚氏が入社したのは1984年、福岡営業所だった。社員はたった二人、机が一つしか無く、「やむを得ず自分の机や椅子・電話回線等までも持ってきた。しかし社長の澤田さんは”世界一になるよ、航空会社も作るよ。”と言っていた。最初は“ホラ吹きだなぁ。”とか“騙された”と感じたが、彼のオーラに引きこまれた。仕事は毎日チラシ配りだけだった。しかし諦めず目の前のできることを続けた結果、福岡市内で一番綺麗なオフィスと良い挨拶でお客さまを迎えられる旅行会社になった。」と語る。
H.I.Sは現在年商5,374億円(平成27年10月期)の大企業となり、2016年2月には国内主要49社でシェア19.6%(売上高比)を達成している。ハウステンボスを傘下に収めたほか、今後訪日外国人向けのインバウンド市場拡大のために海外店舗を増やしており、既に200店舗を超えている。

出典  ベンチャー企業HISの成功方法「ゼロからの挑戦」FUKUOKA成長塾 http://www.fukuokajuku.jp/archive/past8.html
H.I.S IR情報ほか http://his.co.jp/ir/

H.I.Sって、ウワサでは聞いたことあるけどホント急成長したんだね。スゴイなー。
旅行業界は古い業者さんが数多くいるらしいから、並大抵の努力ではなかったでしょうね。
ワシも若い頃に街で単色刷りの粗末なチラシを何度ももらったことがあるが、その航空券の激安ぶりには驚いたのー。それで何度か使わせてもらったんじゃ。
おか婆さんと海外旅行に行ったんでしょ?
バカモーン!ノーコメントじゃ!

 

ITエンジニアのためのマーケティング入門 第17回 (vol.40掲載)

【今回の用語まとめ】

ポーターの競争戦略

米国の競争戦略論の大家、M.E.ポーター(Michael Eugene Porter)が発表した経営戦略論。多くの戦略に関する著作があるが、代表作『競争の戦略』は経営戦略論の古典として今日でも多くの経営者や、経営学を学ぶ学生の間で利用されている。「3つの競争基本戦略」のほか、「5つの競争要因」という“顧客の価格引き下げ圧力、新規参入者の脅威、代替品出現の脅威、供給事業者の価格交渉力、競合者間の敵対関係の5要素のうち、どれか1つでも強くなると競争環境が変わる”とする5フォース分析やバリュー・チェーンなどの考え方を広めた。
その後多くのポーター理論への批判があり、

1. 顧客の視点がほとんど含まれていないこと
2. 自社対競合などの、自社以外の存在との関係性を重視するが、企業自身の内部的特性や潜在的強み(後にコア・コンピータンス理論に繋がる)が考慮されないこと

などが批判の対象となった。「できるだけ競争しないのが競争戦略」と揶揄されたが、名著の誉は今日でも揺るぎなく、MBA学生や経営者の必読書となっている。

ITエンジニアのためのマーケティング入門 第14回 (vol.37掲載)

投稿日:2017.06.6 | カテゴリー: 記事

Written by 水間 丈博

本記事掲載のシェルスクリプトマガジンvol.37は以下リンク先でご購入できます。

おか爺:昔システム会社の役員をやっていたらしい。好奇心旺盛で意外とモノ知り。趣味は音楽(クラシックからJPOPまで!)と囲碁(有段者)。ちょっとした丘の上に住んでいるので「おか爺」と呼ばれている。やや奇怪な老人。

タケシ:工業大学でITを学び、小さなIT会社に就職したITエンジニアの卵。社長に「マーケティングを学んでおけ」と言われている。近くにある母方の祖父、おか爺の家に時々遊びに行く。趣味はサイクリング。まだ彼女はいない。

カンナ:タケシの後輩。大学では文学部で日本史を学ぶ。会社では広報部に配属された。

第14回 マーケティングの実践 – その2 –

前回までのあらすじ

エンジニアのタケシは、社長からマーケティングを学ぶように言われ、近くに住む祖父「おか爺」の家に通い、マーケティングについていろいろ知識を吸収しています。マーケティングの基本について一通り学び終え、前回からは会社の後輩カンナちゃんも一緒にマーケティングの実践方法を学んでいこうと考えています。

さて、普通の会社にとって最も重要な目的はなんじゃろ?
うーん、良い商品やサービスを出し続けて利益を上げることかな?
お客さまをできるだけ多く集めてファンになってもらうことじゃないかしら?
タケシ、イマイチじゃな。カンナちゃんが正解じゃ!
わーいっ!
でも、お客さんを集めただけじゃ利益がでるかわからないよね?
タケシや、お客さんが大勢いるのにつぶれた会社はないんじゃ。たいてい、お客さんが減って立ち行かなくなって会社を維持できなくなるんじゃ。
確かに最近そうした例が多いかもね。
前に紹介したことのあるドラッカー先生の話では、「企業の目的は一つしかない。それは“顧客の創造”であり、さらに“企業=営利組織ではない”として、“企業とは何か”を決めるのは顧客以外には存在せず、だから基本的な企業の機能は“マーケティングとイノベーションだけである”。」と説いているんじゃよ※1

※1 ドラッカーは第1章「企業の成果」の冒頭で“企業=営利組織ではない”とし、古典派経済学への批判とともに、利益は大切だが利益動機なるものは無意味であり存在することさえ怪しい、と指摘している。
出典:『エッセンシャル版 マネジメント 基本と原則』P.F.ドラッカー著 上田惇生編訳 ダイヤモンド社

そうか。企業は「利益目標」を達成することが使命のように思っていたけどなぁ。
それは企業の存在意義を考えてみれば目的にはならんことがすぐわかるじゃろ。確かに利益も必要ではあるが、それは“目的ではなく条件”なんじゃ。さて、カンナちゃん、会社ではどうやってお客さんを見つけるのかな?
昔は雑誌広告が多かったらしいんですけど、あまり効果がないらしくて。今はホームページと展示会がメインみたいです。時々セミナーも開催しているようです。
なるほど。BtoB企業が普通によくやる手段じゃな。
新しいお客さんを見つけるのが、やっぱり会社でも課題になっているみたいだよー。
そうじゃろ。ま、BtoBの話は後回しにして、まずはファネルマーケティングの話からするかの。
ファネルマーケティング?
要するに“じょうご(漏斗)”のようなものじゃよ。
元が広くて先が細いあのじょうご?
お客さんと何か関係があるのかしら?
図1をみてみぃ。ある商品に、まずは大勢の潜在的なお客さんが気付く(Attention)、次に気付いたお客さんの中で興味を持った人たち(Interest)が“欲しいなー”と考える(Desire)、次にこれが意識の中に記憶され(Memory)、最後に購買行動に出る(Action)、そしてお客さんになる…。

図1 Purchase Funnel
AIDMA(アイドマ)っていうのかしら?
そうじゃ。今から100年近く前にアメリカの広告研究家が発案して世界に広まったんじゃな。海外ではPurchase Funnelと呼ばれておる。一つ一つ関門を突破してくれた潜在顧客が最終的に購買に至るという意味があるんじゃ。
へーっ。商品を知らない人がお客さんになるまでのプロセスを示してるんだね?
その通りじゃ。これは消費者購買モデルとして古くから研究されておるから、調べてみるとよい。では、事例を一つ見てみようかの。これは誰もが知る事例かもしれん。

事例23:アマゾン「ワン・クリック」の発明

1997年、J.ベゾスは二人の若いエンジニアと一緒にランチをとっていた時、「できる限り簡単に買い物ができるようにしたい」とつぶやいた。この願いを叶えたのが、あらかじめ顧客住所とカード情報をデータベースに登録しておき、サインインした顧客がボタンを一回クリックするだけで注文が完了するシステム「ワン・クリック」の仕組みだった。顧客の買い物の手間を少しでも減らせば売上が増え、競合相手を出し抜けると考えたのだ。
今でこそ、なんの変哲もないシステムだが、当時としては新しく、「通信ネットワーク経由で購入注文を実現する方法とシステム」として特許出願され商標登録も行った。これはビジネスモデル特許のさきがけになった。
『ジェフ・ベゾス果てなき野望』?ブラッド・ストーン著 井口耕二訳 日経BP社 ほか https://www.amazon.co.jp/gp/help/customer/display.html?nodeId=201443070

ふーん、確かにこれ便利だよね。
一度利用すると、IDが登録されて次回からワンクリックでオーダーできるのね。
すると、次回も使おうという事になる。さらにプライム客には基本送料無料にしたからリピートされる。これがインターネットの隆盛とタイミングが一致したので、爆発的に客が増えたとも考えられるんじゃ。これをAIDMAに沿って説明したのが表1じゃ。

表1

なるほど、あるある!
実は、この最後の「Action=購入する」という関門が「最後のひと押し」といって一番難儀なんじゃよ。「カゴ落ち」といって、カートに入れたまま注文されない商品が結構あるんじゃ。これを「ワン・クリック」という技で敷居を極限まで低くしたところがミソなんじゃ。
価格が安めに設定されているし送料も無料で早く届くから、衝動買いもしやすくなっているのよね。
次のもあることがきっかけで売上を大きく伸ばした事例じゃ。

事例24:機能性表示で大復活したカゴメトマトジュース

カゴメの定番商品「トマトジュース」が“血中コレステロールが気になる方に”という表示を2016年2月2日に開始した結果、前年対比出荷実績が328%に達したと発表。これは2015年4月から消費者庁による「機能性表示食品制度」が開始され、従来の「特定保健用食品(トクホ)」と「栄養機能食品」に加え、新たに科学的根拠に基づく有効性を表示できる「機能性表示食品」というカテゴリーが加えられたことに対応したもの。
カゴメは、新しい価値“リコピンが血中HDL(善玉)コレステロールを増やす”という効果が受け入れられた、と自己評価している。
実は2014年夏、カゴメはトマトなどの原材料費高騰や消費税引き上げに伴う需要減で国内飲料事業が15%も落ち込み、2014年12月期 業績予想を下方修正していたのだ。制度変更を上手に捉えた製品戦略で大きく復活した好事例となった。トクホの指定を受けるよりもハードルが低いため、現在カゴメ以外に200以上の商品が指定を受けている。
参考:「機能性表示食品カゴメトマトジュース売上好調のお知らせ出荷前年比328%を達成」カゴメニュースリリース 2016年2月22日 http://www.kagome.co.jp/company/news/2016/02/002602.html

「機能性表示食品制度がはじまります」消費者庁 平成27年4月 http://www.caa.go.jp/foods/pdf/syokuhin1443.pdf

前年比3倍以上の伸びって、スゴクない?
私も特にコレステロールが高いわけではないけれど、“体に良い”という安心感が無意識に働いちゃったのか、買ったことあるわ。
日本では心疾患や脳血管疾患が原因で亡くなる人の割合が25%以上と言われており※2、その原因の一つが悪玉コレステロールによる動脈硬化だという常識が広まっているから、潜在顧客層は膨大な数になるじゃろ。そこにコレステロール低下に効果があるといった表示をしたんで一挙に注意(Attention)、関心(Interest)を飛び越えてAction(購買)に結びついたお客さんが多かったんじゃな。
※2 出典:「病気の知識」シオノギ製薬 http://www.shionogi.co.jp/wellness/diseases/dyslipidemia.html

値段も手ごろだし食塩無添加の商品も分かりやすくなっているから、つい買っちゃうのかも。
これは肝心の中身は何も変わってないのに、表示を変えただけで売上が大きく伸びたというところが面白いのう。
これがマーケティングの威力なのか…。
ハッハッハ。そう捉えてもよかろう。重要なことは、Attention→Interest→Desire→Memory→Actionのそれぞれの関門の間際でお客さんをできるだけ逃がさない工夫をし続けることなんじゃ。
逃さない工夫って?
それはメッセージだったり、印象的な画像だったり、オトクなキャンペーンだったり、メールニュースだったり、手段やタイミングはいろいろ考えられるじゃろ。
お客さんが興味を持ってくれたら、それが薄れないうちに背中を押してあげるようなアクションをとるべきなのね。
そういうことじゃ。では次回はBtoBについて考えてみるかの。

【今回の用語まとめ】

消費者購買モデル

消費者が商品やサービスを初めて認知してから購買するまでのプロセスを説明するモデル。購買意思決定プロセスともいう。様々な考え方が存在し、最近はSNS拡大を意識した購買後の情報シェアまで考慮に入れたものも存在する。特に大手広告代理店の電通が提唱し登録商標にもなっているAISAS(アイサス)が有名。
【保存版】「消費者購買行動モデル」まとめ NAVERまとめ http://matome.naver.jp/odai/2132383210009786701

カゴ落ち

ECサイトなどで、いったんカートに入れた商品を結局買わずに放置する(される)こと。カート離脱率(放棄率)として認識され、平均60-70%が放棄されているといわれる。これはEC先進国米国をはじめ世界的な傾向でもあり、大きな課題になっている。カート放棄の原因は、購買までの手続きが複雑、入力すべき個人情報が多すぎる、決済手段の選択肢が限られる、配送料が高い、返品やキャンセルなどの情報がわかりにくい、などがあるとされる。

ITエンジニアのためのマーケティング入門 第13回 (vol.36掲載)

投稿日:2017.06.6 | カテゴリー: 記事

Written by 水間 丈博

本記事掲載のシェルスクリプトマガジンvol.36は以下リンク先でご購入できます。

おか爺:昔システム会社の役員をやっていたらしい。好奇心旺盛で意外とモノ知り。趣味は音楽(クラシックからJPOPまで!)と囲碁(有段者)。ちょっとした丘の上に住んでいるので「おか爺」と呼ばれている。やや奇怪な老人。

タケシ:工業大学でITを学び、小さなIT会社に就職したITエンジニアの卵。社長に「マーケティングを学んでおけ」と言われている。近くにある母方の祖父、おか爺の家に時々遊びに行く。趣味はサイクリング。まだ彼女はいない。

カンナ:タケシの後輩。大学では文学部で日本史を学ぶ。会社では広報部に配属された。

第13回 マーケティングの実践 – その1 –

前回までのあらすじ

エンジニアのタケシは、社長からマーケティングを学ぶように言われ、近くに住む祖父「おか爺」の家に通い、マーケティングについて学んでいます。前回までマーケティングの基本的知識「STP」や「4P+4C」などを一通り学びました。これからはマーケティングの実践方法を学んで行こうと考えています。今回、おか爺の話を聞いて興味を持った後輩のカンナちゃんを連れてきました。

こんにちはー、おか爺。今日はお客さんを連れてきたよ!
初めまして、カンナといいます。タケシ先輩からおか爺さんの話を聞いて、私も聞きたくなって連れてきてもらいました!
それは、熱心なことじゃのう。これからタケシと遠慮なく遊びにおいで。それで今はどんな仕事を?
広報部に配属されたんですけど、入ったばかりでまだ仕事がよくわからなくて…。
広報部か?それは良かったのう。タケシにも参考になる経験がこれからたくさんできるじゃろ。ワシも少しは役に立てればよいがの。
はいっ!いろいろ教えてくださいね!
ところで、広報部は一般的にPRをやる部署なんじゃが、タケシ、PRの意味は分かっているかの?
PRって、文字通りプロパガンダ(PRopagada=宣伝)のことでしょ?…まてよ、プロモーション(PRomotion)のことだったかな?
プレスリリース(Press Release)の略なんじゃないかしら?
とほほ…残念ながら、二人とも間違いじゃ!PRはパブリック・リレーションズ(Public Relations)のことなんじゃよ。
パブリック・リレーションズ?なんか初めて聞いたなぁ…。
それも止むを得ん。世の中、「宣伝=PR」と認識している人が大部分じゃからの。その道の専門家でもこのように考えている輩がおる。これは勘違いなんじゃ。
そうだったのー!?
PRは20世紀のはじめ頃からアメリカで発展した考え方なんじゃが、「企業などの組織とその利害関係者(個人や集団、社会)と望ましい関係を構築するためのもの」というのが基本理念なんじゃ。ところが、日本に戦後導入された際に、民間企業で“PR”と略されたんで宣伝とほとんど同じ意味でしか使われなかったという経緯があるんじゃな。
広告会社をPR会社と言うのも、そういう事情だったのね。
PRで一般的に使われるのが「プレスリリース」で、これは新聞社など報道機関向けに記事にしてもらうことを期待して情報を配信するんじゃが、なかなか記事にしてもらえないのが実態じゃった。ところが、最近はWEBが発達したから、企業が「プレスリリース」と同時に「ニュースリリース」といった形で自社サイトで公式に発表することが多くなったのう。何より新しい商品を知る場としての報道機関の重要性が低下してしまったからの。
記者室向けに発表するなんて、まぁ時代遅れかもしれないよねー。

※1 パブリックリレーションズ(PR)広報と訳される。「組織体とその存続を左右するパブリックとの間に、相互に利益をもたらす関係性を構築し、維持するマネジメント機能(米国PRの教科書『Effective Public Relations』(邦訳名『体系パブリック・リレーションズ』カトリップ、センター、ブルーム3氏による)」と定義されている。さらに日本PR協会では、「企業、行政、学校、NPOなどあらゆる組織体が、それを取り巻く多様な人々(今日ではその組織となんらかの利害関係がある人々をステークホルダーと呼ぶ)との間に継続的な“信頼関係”を築いていくための思考・行動である」と補足されている。
公益社団法人日本パブリックリレーションズ協会 http://prsj.or.jp/shiraberu/aboutpr

最近の企業の「ニュースリリース」はかなり充実しておる。次のは、いい例かもしれん。

事例21:マツダのニュースリリースサイト

マツダの「ニュースリリース」サイトでは、2008年からニュース毎に写真のアイコンを入れ始め、最新ニュースへの誘因を促すアイキャッチとしている。ブランドサイトとしての一貫性が図られ、通常IR情報(株主や投資家向け情報)に属する情報へもこのページから直接アクセスできるように工夫している。

参考:http://www2.mazda.com/ja/publicity/release/2016/index.html

広報のページって堅苦しいイメージがあるけど、これはなんかカッコいいね。
綺麗にまとめられていて、思わずクリックしたくなる作りなのね。
北米で先に販売する新車のニュースが載っておるの。このページを訪れれば、たいていの最新情報にすぐにアクセスできるから、訪問者にとっては使いやすいサイトといえるじゃろ。では、“広報と広告の違い”はわかるかな?
うーん、広告はお金をかけるけど、広報はお金をかけないってことなんじゃないかな?
宣伝目的が広告、正確なニュースを周知するのが広報なんじゃないかしら?
うーん、まぁどちらも正解でよいじゃろ。PRの機能については?社会との共生、?企業の社会的認知の促進、?社会からの要望の採取、?自社を取り巻く社会環境の把握、?企業文化の構築と改革、といったものがあるんじゃが※1、分かりやすいように、広告とPRの違いを簡単にまとめておいた。参考になればよいがの。

表1:広告とPRの違い

なるほど。広告の浸透力が弱いっていうのは、すぐに忘れられやすいってことなのかしら?
そうじゃ。世の中広告があふれているからの。その一方でPRには信用度と客観性があるから、いったん注目されると印象に残りやすい面があるんじゃ。
たしかにそんな気もするよね。
さて、もう一つ事例を見てみようかの。

事例22:積極的なニュースリリースで過去最高の志願者数を獲得した近畿大学

近畿大学は2015年3月、「平成27年度一般入試志願者数確定過去最高の11万3,704人」というニュースをリリースした。これがプレスリリース配信サービス「News2u」社の月間ベストネットPR賞を受賞した。この背景には、「近大マグロの研究成果」をはじめ「完全ネット出願」、「教科書販売をAmazonと提携」、「初の女子応援部団長誕生」などメディアの興味を喚起するニュースリリースを配信し続けている地道な努力があった。時間をかけた継続的なニュース配信が過去最高の志願者数という成果につながった。その数は2015年度約360本。決め手は平成27年度入学式を近畿大OB、つんく♂がプロデュースしたことだった。その後入学式における「つんく♂無言の理由」が明らかになり、これも大きなニュースになった。平成28年度の入学式も“つんく♂プロデュース”が予定されている。

参考:月間ベストネットPR賞。2015年3月は「価値あるニュースを作り出し、オンラインで発信を続ける」近畿大学のネットPR事例が受賞!担当者からの受賞コメントを公開http://netpr.jp/netpr/models/17123/

これ、大学の入学式の案内?華やかで楽しそうだねー。
女子志願者も3万人を超えて過去最高になったのね。
ボクの大学生活は暗かったな…。
はっはっはっ!女子の前で何を言うとる!これから明るくしていけば遅くはないぞよ、タケシ!
うーん、そうだね。
さて、PRの話を見たところで、これからマーケティングをどう実践していくかといった話をしていこうかの。マーケティングの考え方を応用する方法には様々な考え方がある。いくつか代表的なものを事例とともに見ていくことにしよう。
それは勉強になります。楽しみっ!
「マーケティングの始め方」で習ったことが出てくるわけだね?
そうじゃな。新しい用語も出てくるじゃろ。前回までの話を縦糸とすれば、実践方法は横糸といったところかの。
ボクも楽しみにしてるよ!

 

ITエンジニアのためのマーケティング入門 第14回 (vol.37掲載)

ITエンジニアのためのマーケティング入門 第17回 (vol.40掲載)

投稿日:2017.06.6 | カテゴリー: 記事

Written by 水間 丈博

本記事掲載のシェルスクリプトマガジンvol.40は以下リンク先でご購入できます。

おか爺:昔システム会社の役員をやっていたらしい。好奇心旺盛で意外とモノ知り。趣味は音楽(クラシックからJPOPまで!)と囲碁(有段者)。ちょっとした丘の上に住んでいるので「おか爺」と呼ばれている。やや奇怪な老人。

タケシ:工業大学でITを学び、小さなIT会社に就職したITエンジニアの卵。社長に「マーケティングを学んでおけ」と言われている。近くにある母方の祖父、おか爺の家に時々遊びに行く。趣味はサイクリング。まだ彼女はいない。

カンナ:タケシの後輩。大学では文学部で日本史を学ぶ。会社では広報部に配属された。

第17回 マーケティングの実践 – その5-

前回までのあらすじ

エンジニアのタケシは、社長からマーケティングを学ぶように言われ、近くに住む祖父「おか爺」の家に通い、マーケティングについていろいろ知識を吸収しています。マーケティングの基本について一通り学び終え、これから会社の後輩カンナちゃんと一緒にマーケティングの実践方法を学んで行こうと考えています。前回からは「競合優位追求型マーケティング」のお話で、今回はその後編です。

この前はポーター先生の3つの競争戦略(①低コスト戦略②差別化戦略③集中化戦略)からマーケティングを考えながら、日本の隠れた世界的企業を見てきたが、どうじゃったかな?
世界で活躍する日本の機械屋さんが数多くあって驚いたね。
日本の製造業は衰えたって聞くけど、まだまだ力強い会社が多くて層の厚さを感じたわね。
それでは一つ問題じゃ。この例はどの戦略をとったんじゃろか?

事例28:世界最大のEMS鴻海精密工業

鴻海精密工業(鴻海科技集団:ホンハイ)は1874年台湾で創業した世界最大のEMS(電子機器受託生産:Electronics Manufacturing Service)企業、フォックスコン・テクノロジー・グループ(Foxconn Technology Group)の中核会社。当初は白黒テレビ用のプラスチック部品を下請けで製造する従業員10名だけの小企業だった。1981年にコンピュータ用コネクタ製造を開始し、創業者郭氏(現会長)の熱心な米国営業行脚が功を奏してインテル社などのPCのマザーボート用コネクターに採用されて急拡大、1993年には中国に最初の製造ラインを設置した。1990年代末にはPC本体製造も手掛ける。当時DellやHPがPC製造をBTO(Build to Order)方式に移行したのに伴い更に急成長し、中国本土の工場を拡大していった。米国にも営業拠点やR&Dセンターを設立、欧州にも進出した。その頃には液晶パネルやDVDなどパソコンの重要部品のほとんどを自社で製造できるようになった。2000年以降は携帯電話モジュールの製造に着手、その後iPod,iPhoneの世界拡大に歩調を合わせ、年商の4割がApple向けに。数々のM&Aを手掛けてきたが2016年3月にシャープを買収、かつての下請企業が注文主企業を併呑するにいたった。
現在世界14か国に製造拠点を設け、グループ売上高約14兆円(2014)、従業員130万人(2015)の巨大企業グループとなった。

出典 http://www.foxconn.com/

さて、この事例を見ると、ホンハイは当初TV用プラスチック部品という狭い分野からスタートし、次にコンピュータのコネクターという地味なパーツを手掛けた(集中化)。さらに中国大陸に進出して低労働コストを生かしてPC部品を大量かつ廉価に供給できるようになり(低コスト)、やがてスマートフォンの大量受託、迅速な納品ができるようになったので(差別化)世界的にシェアを伸ばした、といったように見えるのう。
なかなか競争戦略のどれかの枠にはまりそうもないわね。
企業が成長すると共に採りえる戦略が違うってことなのかなー。
まぁそう無理に当てはめる必要もないぞな。
自社の製造能力と世界の顧客の動向を見て、いち早く有利な分野の技術と生産能力を磨いたのかも…。
おお、かんなちゃん、相変わらず目の付け所が良いな。そういうことなんじゃ。それではもう一つ別の戦略を紹介しておこう。アメリカのJ.バーニーという経営学者の唱えた企業戦略論における「リソース・ベースト・ビュー理論」、略してRBV理論じゃ。
RBV?RPGと紛らわしいよね?
バカモン!ちっとも紛らわしくないわ!
フフッ。おか爺さん、タケシさんは今“ドラゴンプロジェクト”ゲームにハマってるんですよー。
どうせ、そんなところじゃろうて。良いか?前回、ポーター先生の競争戦略論が“自社以外の存在との関係性を重視し、内部の特性や潜在的強みが考慮されない”と学んだところじゃが、バーニー先生のRBVはポーター理論に真っ向から反論して、企業競争力の優位性を企業内部の経営資源に求めた考え方なんじゃ。この考え方のフレームワークを通称「VRIOフレームワーク」というんじゃよ。
ヴリオ?またそれ何の略?
表1の4つの項目を自身に問うてみるのじゃ。

表1 VRIOフレームワーク


外の競合企業とか、お客さんとかではなくて、まずは企業自身で内的に競合優位性を検証してみるってことなのね?
そうじゃ。競合優位は外部環境による影響ももちろん大きんじゃが、何よりも企業内部で蓄積した価値を持続的に発揮できるかどうかにかかっているというわけじゃ。
言われてみれば当然のような気もするよねー。
順番に問うてみた結果、判明する競合優位性を絵にするとこんなふうになる(図1)。

図1:VRIO分析図※1

※1 出典:「《ミドルのための実践的戦略思考》ジェイ・B・バーニーの『企業戦略論 競争優位の構築と持続』で読み解く金属製品メーカーの人事課長・岩岡の悩み」東洋経済ONLINE 2012年5月11日 http://toyokeizai.net/articles/-/9120
バーニー先生は最後(④のところ)で、実は“持続可能性(Sustainability)”が重要だと説いているんじゃ。競合優位性を、企業の価値を軽視した一過性の施策で獲得できるようなものではないと言うとるんじゃな。
希少性があるだけでは優位性も一時的になってしまう可能性があるのね。
そうなんじゃ。では、ホンハイの事例に戻って考えてみようかの。こうまとめられるじゃろ。

表2 ホンハイのVRIOフレームワーク


ふーん、一応今は持続的競争優位ではあるけれど、最大限ではないってところなのか。競合優位ってやっぱりすぐにできるものじゃないってことがよくわかったよ。
Wikiで調べたら、ソフトバンクのPepperくんを作っているのもホンハイなのね。
実はこのRBVはポーター戦略に対抗した理論として有名で、さらにRBVの中でも経営学の大論争になっていて、決着がついておらんのじゃ。このほかにもマーケティングと切ってもきれない経営戦略の理論はたくさんあるから、勉強してみると面白いぞよ。
はいっ!勉強してみます!
マーケティングを学ぶのに経営学も必要なのかー。ヤレヤレ…。
では、最後に“戦略なくして競合優位を築いた事例”があるから見てみようかの。
戦略が無いのに競合優位?
そうじゃよ。実は、世の中そんな例の方が多いんじゃよ。“戦略ありき”で成功した事例は少ないのじゃ。成功企業は何かしらの戦略があった風な成功譚になりがちじゃからの。これもMBA教育の“悪しき影響”かもしれんなー。

事例29:新市場を開拓し生産台数世界一 HONDAスーパーカブ

ホンダが戦後原動機付自転車を開発し、1949年の1200台から1959年28万台へ販売量を増やし、国内に確固とした地位を確立した。次に目指したのはアメリカだった。しかし当時の北米バイク市場規模は年間6万台たらず。大型で馬力のあるBMWやハーレーなどの独壇場だった。すでに自動車社会だったのだ。ここにホンダは自ら市場を開拓しようと、250ccの“ドリーム”を持ち込んだ。しかし、ほとんどのバイク・ディーラーに敗戦国の小型バイクは見向きもされず、初年度売上はたった170台だった。ホンダの駐在社員は気晴らしに休日、日本から持ち込んだ仕事用のスーパーカブでロサンゼルス郊外のダートを走り回っていた。ところが、現地の人々から「その小さなバイクはどこで買えるのか?」と尋ねられ、日本に特別注文する羽目になった。その後この小さなバイクでダートを走る人々が増え、まったく新しい市場を予感する。結局大型バイクの販売をいったん諦め、スーパーカブに注力することにした。販売店はディーラーではなくスポーツショップだった。UCLAの学生が“You meet the nicest people on a Honda”というコピーを広告代理店に持ち込んだところ、採用され人気に火をつけた(この広告はやがて広告賞を受賞する)。このホンダの50ccバイクは米国にとっては破壊的技術だった。スーパーカブは世界で累計8,700万台(2014年)も売れる商品となった。

出典『イノベーションのジレンマ』クレイトン・クリステンセン 翔泳社?http://www.shoeisha.co.jp/book/detail/9784798100234

結局、最初は失敗だったってこと?
そうじゃな。クレイトン先生も「ホンダが北米やヨーロッパ市場を支配したのは、“明確な戦略的思考と積極的で首尾一貫した実行力が成しえた生産戦略と見事な広告戦略の勝利”と語られるが、現実はまったく違っていた」と記しているぞよ。
それでも市場では高名なBMWやハーレー・ダビッドソンに勝っちゃったのね?
実は、この後ハーレーも小型バイク市場に参入したのじゃよ。しかし、それは完全な失敗に終わってしまったんじゃ。
えっ?!どうして?
ディーラーが反対したからじゃ。大型バイクを扱い慣れたディーラーにしてみれば、小型バイクは利幅も薄いし手間がかかる。それに既存顧客が持つブランドイメージを壊してしまうと考えたのじゃ。
ナルホドねー。
それで高級バイク路線で生き残っておる。燃費は悪そうじゃがな。
へーっ、そんな歴史があるんだね。
やはり、いったん大きなものを手掛けて成功すると、小さなことに情熱が持てなくなるのかしら?
ハッハッハ。それが“ジレンマ”なんじゃ!さて、競合優位のマーケティングと題したが、マーケティングだけで競合優位を確立する方法はなく、組織全体として常にお客さんの顔を見ながら拡大のチャンスを耽々と狙い、チャンスがあったら素早く行動する、という活動を地道に続けるしか無いんじゃな。
マーケティングと経営が切り離せないってそういうことかー。
少しは理解したかの?ドラゴンちゃん!
ちょっちょっと、やめてよっ!

【今回の用語まとめ】

バーニーの企業戦略論

米国オハイオ州立大学の経営学者J.B.バーニー(J.B.Barney)が1996年に発表した「企業戦略論」で論じた企業の戦略優位性を企業内部のリソース(資源)に求めた理論。M.E.ポーターの経営戦略論では、競争優位性を市場と競合環境の綿密な分析により最も有利な位置を取ることによって生み出すと考える、いわゆるポジショニング理論であった。これに対し、企業内部の経営資源(リソース)にその源泉を求め、競争優位の要因は業界の特徴にあるのではなく、その企業自身が持つケイパビリティ(能力)にあるとした。VRIO分析で示される4つの条件を満たす企業が持続的な競合優位性を獲得できるとした。
参考:「Firm Resources and Sustained Competitive Advantage」 Jay Barney Journal of Management Vol.17 1996
http://www.business.illinois.edu/josephm/BA545_Fall%202015/Barney%20(1991).pdf
参考:「世界の経営学者はいま何を考えているのか」 入山章栄 (英治出版, 2012年)
参考:「はじめての経営学」 野中郁治郎, 楠木 健(東洋経済新報社, 2013年)

ITエンジニアのためのマーケティング入門 第24回 (vol.48掲載)

投稿日:2017.06.6 | カテゴリー: 記事

Written by 水間 丈博

本記事は、「ITエンジニアのためのマーケティング入門 マーケティングの実践編」のまとめ記事です。

関連する過去の連載記事も公開しています。以下のリンクからご参照ください。

ITエンジニアのためのマーケティング入門 第13回 (vol.36掲載)

ITエンジニアのためのマーケティング入門 第14回 (vol.37掲載)

ITエンジニアのためのマーケティング入門 第16回 (vol.39掲載)

ITエンジニアのためのマーケティング入門 第17回 (vol.40掲載)

ITエンジニアのためのマーケティング入門 第18回 (vol.41掲載)

ITエンジニアのためのマーケティング入門 第21回 (vol.44掲載)

ITエンジニアのためのマーケティング入門 第22回 (vol.45掲載)

本記事掲載のシェルスクリプトマガジンvol.48は以下リンク先でご購入できます。

おか爺:昔システム会社の役員をやっていたらしい。好奇心旺盛で意外とモノ知り。趣味は音楽(クラシックからJPOPまで!)と囲碁(有段者)。ちょっとした丘の上に住んでいるので「おか爺」と呼ばれている。やや奇怪な老人。

タケシ:工業大学でITを学び、小さなIT会社に就職したITエンジニアの卵。社長に「マーケティングを学んでおけ」と言われている。近くにある母方の祖父、おか爺の家に時々遊びに行く。趣味はサイクリング。まだ彼女はいない。

カンナ:タケシの後輩。大学では文学部で日本史を学ぶ。会社では広報部に配属された。

 

第24回 マーケティングの実践 その12

前回までのあらすじ

エンジニアのタケシは、社長からマーケティングを学ぶように言われ、近くに住む祖父「おか爺」の家に通い、マーケティングについていろいろな知識を吸収しています。マーケティングの基本について一通り学び終えた後は、会社の後輩カンナちゃんと一緒にマーケティングの実践方法を学んできました。今回は2016年4月から始まった「マーケティングの実践」のまとめです。

さて、第13回から前回の第23回まで11回にわたって「マーケティングの実践」というテーマで様々な考え方や事例を見てきたわけじゃが、どうじゃったかの?
いろいろな事例が出てきて面白かったですねー。
なんだか盛りだくさんで、ちょっと難しかったなー。
そうじゃろな。では今回は、復習と補足を兼ねてこれまで学んだことをまとめてみることにしよう。
取り上げたテーマはこのような流れじゃった。

①「PR」は広告宣伝ではない
②企業の目的は顧客の創造
③競合優位とマーケティング戦略
④グローバル・マーケティング
⑤ブランディング
⑥顧客経験価値マーケティング

それでは順に振り返ってみるかの。

 

①「PRは広告宣伝ではない」

詳しくは→?ITエンジニアのためのマーケティング入門 第13回 (vol.36掲載)

PRとは元来「Public Relations」の略語で、一般的には「広報」と訳されておるが、「組織体とその存続を左右するパブリックとの間に、相互に利益をもたらす関係性を構築・維持するマネジメント機能」という定義じゃった
「パブリック」というのは市場のお客さんのことだから、ここでは企業とお客さんが対等の関係で理解を促進することが目的なんだね。
私も誤解していましたけど、「PR」にはまったく「売り込む」といった概念はないんですね。
その通り。「Public Relations」は宣伝や広告のニオイがしないのが正しいんじゃ。様々な製品やサービスを提供する側(企業)と、それを受け止めて利用する人々(顧客)の間に関係を作り出し、「相互に利益(顧客にとっては便益、企業にとっては売上)が存在すること」を認識させる機能が、PRの本来の意味なんじゃった。この定義は米国版PRの教科書を翻訳したものなんじゃが、「組織体の存続を左右する」とさりげなく入っているコワイ言葉が、「顧客を創造し続けなければ企業は存続が不可能になる」ことを明示しておるんじゃな。なんで実は大変重要な機能なんじゃ。それで「企業の目的」に繋がっていくんだの。

 

②企業の目的は顧客の創造

詳しくは→?ITエンジニアのためのマーケティング入門 第14回 (vol.37掲載)

「企業の目的は顧客の創造」って言い切っているところが、スゴク分かりやすいかもね。
「企業とは何か、を決めるのは顧客のみである」のところと、「企業の基本的機能=マーケティングとイノベーションだけである」は忘れないようにしますね。
それは良い心掛けじゃの。
「顧客を創り出す」ってことで、「アイドマ(AIDMA理論)」なんだね。

図1 Purchase Funnel(第14回より再掲)
「ファネルマーケティング」という表現を使ったが、とにかく新たなお客さんを探し出すことに知恵を絞らないといかん。多くの潜在顧客の中から、自社の特徴を一番理解し魅力を感じてくれるお客さんを見つけ出すのがファネルマーケティングじゃ。B2CでもB2Bでも世の中の顧客獲得手段はほとんどこの考え方でできておるんで、是非覚えてほしかったんじゃ。
今、流行っている「マーケティング・オートメーション」もこの考え方を応用しているんでしたね。

 

③競合優位とマーケティング戦略

詳しくは→?ITエンジニアのためのマーケティング入門 第16回 (vol.39掲載)?ITエンジニアのためのマーケティング入門 第16回 (vol.40掲載)

ここでは著名なM.ポーター先生の「企業戦略論」とJ.バーニー先生の「RBV(リソースベーストビュー)理論」とを対比し、競合優位を勝ち取る幾つかの方法と、競争力には企業内部の経営資源(リソース)と持続性が重要である、という考え方に触れてみたんじゃが、難しかったかの?
ここ難しかったなー。2つの理論が対立しているって言うけど、結局どちらが適切なんだろう?
以前話した「3C(自社:Company 市場の顧客:Customer 競合:Competitor)」を思い出してみるとよかろう(シェルマガvol.34掲載の第11回にて解説)。

図2 マーケティングの検討要素(3C) (第11回より再掲)

それぞれを分析するのはマーケティングの基本じゃった。これらの環境の中で自分が最も有利な立ち位置を選んで戦うことが競合優位に繋がる、という考え方がポーター先生の経営戦略理論で、だから「ポジショニング理論」と言われておったんじゃ。しかし、ここには従業員の創意工夫とか切磋琢磨、努力して熟達度や能力を上げるといった概念が存在しない。そこでバーニー先生の企業戦略論では、競争優位の源泉はこうした業界環境やポジショニングではなくて、企業内部の「ケイパビリティ(能力)」に着目したところが画期的だったわけじゃ。

それなら内部の能力を向上させようとする意識が芽生えてきますよね。
そうなんじゃが、ポーター先生の戦略論は「外部的な要因に注目」していて、バーニー先生の戦略論は「内部的な要因に注目」している。ということで両者補完関係にある、と考えておくのがオススメなんじゃな。

④グローバル・マーケティング

詳しくは→?ITエンジニアのためのマーケティング入門 第18回 (vol.41掲載)

ここでは企業がグローバルに進出する背景と、幾つかの成功例、失敗例に触れて海外で成功するポイントを考えてみたわけじゃ。海外では著名グローバルブランド(コカ・コーラやP&Gなど古くから世界的に事業展開している企業)が先行し、歴史の浅い日本ではこれらの企業を規範として手探りで海外展開してきた企業が多いんじゃ。
でも海外でもトップシェアの会社も多かったよね。
確かに、それこそ他社が簡単に追随できない技術で高いシェアを獲得した企業が多いことに触れたわけじゃが、その半面失敗例もあるから、「①訴求ある独自製品」、「②価値とコンセプトを伝える」、「③技術信仰の打破」、「④販売志向からの脱却」、「⑤ブランディング」の5つを成功のポイントとして挙げたの。
この5つを実践しながら、米国のIT企業のように起業時点から海外展開を当然と考えられれば、成功する可能性が高まるのかもしれませんね。
そうじゃのー。じゃが、日本企業もゆっくり海外展開していられない状況になってきたのかもしれん。
なんで?
中国の「BAT(百度 Baidu,阿里巴巴 Alibaba,騰訊 Tengxun)」と呼ばれる三大ネット企業が米国の先進スタートアップ企業を爆買いしておるというんじゃ。*1

*1:出典:「中国の3大ネット企業が米ハイテク企業を爆買い」週間東洋経済 2017年4月8日号
中国の「BAT(百度 Baidu,阿里巴巴 Alibaba,騰訊 Tengxun)」に通販大手の京東集団を加えた4社が過去2年間米国ハイテクベンチャーへ投資した額は56億ドルに達し、シリコンバレーを含むカリフォルニア州では総額の4分の3以上を占めた。投資先はAR(仮想現実)、SNS、サービス、モバイルセキュリティなど多岐にわたり、米テスラにも18億ドルを投資。中国で成功した企業がイノベーションを吸収し、いずれ先進国企業を追い抜くかもしれないと予想する専門家もいるという。

今度は米国で企業を爆買いかー。お金持ちなんだなー。
M&Aで技術と人材を一手にする戦略ですね?
中国にも起業時点で世界を視野に置いている会社が多くなっておるようじゃの。多額の投資が奏功するかはわからんが、たしかにグローバル化のスピードも早くなっておるようじゃ。

⑤ブランディング

詳しくは→?ITエンジニアのためのマーケティング入門 第21回 (vol.44掲載)

ここでは「ブランド」を確立するとどんな効果があるのか、さらに「ブランド構築のプロセス」にはどんな考え方があるのかを紹介したの。ブランド価値を、顧客だけでなく関係する従業員にも浸透させることの重要性にも触れてみた。
「①ブランドポジショニング」、「②ブランドマーケティングプログラム」、「③ブランドパフォーマンス測定」、「④ブランド・エクイティの育成と維持」の4段階で進めるのでしたね。

図3 ブランド構築のプロセス(第21回より再掲)
ここで最も大切なことは「ブランディングは、トップが強い意思と長期的な展望を持って実行すること」なんじゃよ。
「市場における自社ブランドの価値と存在意義をしっかり提示する」のが社長の役割でしたね?
ところが、ほとんどの日本企業ではこの大切な仕事を、マーケティング部門や広報部門などの一部の部門に任せてしまっているのが、残念ながら現実なんじゃな。
ブランド価値を社員に浸透させる教育や組織づくりも考えないといけないんだったね。

⑥顧客経験価値マーケティング

詳しくは→?ITエンジニアのためのマーケティング入門 第22回 (vol.45掲載)

現在盛んに言われ始めた「顧客経験価値(CX)」がなぜ重視されているのか、顧客経験価値はどのように分類できるのか、さらにマーケティングに顧客経験価値を取り入れる方法について事例とともに紹介してみたの。タケシ、なぜ顧客の経験価値が重視され始めたのか理解したかな?
「モノより感動体験」でしょ!?
ハッハッ、一言でいえばそうなるわな。
前回やったばかりだからね!
以前にも触れたが今は「モノ余り時代」と言われてからかなり経つし、特に最近の若い者は物欲が乏しいとも言われておる。これも経験的ベネフィットが注目される背景になっておるようじゃ。
今「断捨離」する人も多いっていいますしね。
ボクなんか欲しいモノたくさんあるけどなー。
そして経験価値マネジメントのフレームワークを紹介したぞな。
「①顧客の経験価値世界を分析」、「②経験価値プラットフォーム構築」、「③ブランド経験価値のデザイン」、「④顧客インタフェースの構築」、「⑤継続的イノベーションに取り組む」、この5つのステップでしたね。
事例は興味深かったけど、「問題発見力」を養うことと、常日頃から「深く考える」習慣が必要なんだよねー。ボクはあまり得意じゃないなー。
バカモン!両方なければIT技術者として生き残れんぞなー。
フッフ、おか爺さん大丈夫ですよ、この前の新人歓迎会の余興はタケシさんがリーダーですごく考えて大好評だったんですよー!
ハッハッハ、それはイノベーティブだったんじゃの!良かったのー。
カンナちゃん、それは内緒!
さて、日本では一般的に「イノベーション」は「技術開発」と同等のもの、と誤解されていることが多いことは知っておるの。もちろん技術開発の結果がイノベーションに繋がることもあるんじゃが、イコールではない。そして「イノベーション」は企業の内部から生み出すものではなくて、顧客が意識しているしていないを問わず、「顧客の問題を解決した結果」がイノベーション、ということを忘れないように。
「マーケティングもイノベーションも顧客が起点」でしたね!
そうじゃ、カンナちゃんだけ合格!
ちょ、それはないでしょ!
次回からは「デジタル・マーケティング」について様々な
トピックを紹介していく予定です。お楽しみに!

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