Written by 水間 丈博
本記事は、「ITエンジニアのためのマーケティング入門 マーケティングの実践編」のまとめ記事です。
関連する過去の連載記事も公開しています。以下のリンクからご参照ください。
ITエンジニアのためのマーケティング入門 第13回 (vol.36掲載)
ITエンジニアのためのマーケティング入門 第14回 (vol.37掲載)
ITエンジニアのためのマーケティング入門 第16回 (vol.39掲載)
ITエンジニアのためのマーケティング入門 第17回 (vol.40掲載)
ITエンジニアのためのマーケティング入門 第18回 (vol.41掲載)
ITエンジニアのためのマーケティング入門 第21回 (vol.44掲載)
ITエンジニアのためのマーケティング入門 第22回 (vol.45掲載)
本記事掲載のシェルスクリプトマガジンvol.48は以下リンク先でご購入できます。
おか爺:昔システム会社の役員をやっていたらしい。好奇心旺盛で意外とモノ知り。趣味は音楽(クラシックからJPOPまで!)と囲碁(有段者)。ちょっとした丘の上に住んでいるので「おか爺」と呼ばれている。やや奇怪な老人。
タケシ:工業大学でITを学び、小さなIT会社に就職したITエンジニアの卵。社長に「マーケティングを学んでおけ」と言われている。近くにある母方の祖父、おか爺の家に時々遊びに行く。趣味はサイクリング。まだ彼女はいない。
カンナ:タケシの後輩。大学では文学部で日本史を学ぶ。会社では広報部に配属された。
エンジニアのタケシは、社長からマーケティングを学ぶように言われ、近くに住む祖父「おか爺」の家に通い、マーケティングについていろいろな知識を吸収しています。マーケティングの基本について一通り学び終えた後は、会社の後輩カンナちゃんと一緒にマーケティングの実践方法を学んできました。今回は2016年4月から始まった「マーケティングの実践」のまとめです。
さて、第13回から前回の第23回まで11回にわたって「マーケティングの実践」というテーマで様々な考え方や事例を見てきたわけじゃが、どうじゃったかの?
いろいろな事例が出てきて面白かったですねー。
なんだか盛りだくさんで、ちょっと難しかったなー。
そうじゃろな。では今回は、復習と補足を兼ねてこれまで学んだことをまとめてみることにしよう。
取り上げたテーマはこのような流れじゃった。
PRとは元来「Public Relations」の略語で、一般的には「広報」と訳されておるが、「組織体とその存続を左右するパブリックとの間に、相互に利益をもたらす関係性を構築・維持するマネジメント機能」という定義じゃった。
「パブリック」というのは市場のお客さんのことだから、ここでは企業とお客さんが対等の関係で理解を促進することが目的なんだね。
私も誤解していましたけど、「PR」にはまったく「売り込む」といった概念はないんですね。
その通り。「Public Relations」は宣伝や広告のニオイがしないのが正しいんじゃ。様々な製品やサービスを提供する側(企業)と、それを受け止めて利用する人々(顧客)の間に関係を作り出し、「相互に利益(顧客にとっては便益、企業にとっては売上)が存在すること」を認識させる機能が、PRの本来の意味なんじゃった。この定義は米国版PRの教科書を翻訳したものなんじゃが、「組織体の存続を左右する」とさりげなく入っているコワイ言葉が、「顧客を創造し続けなければ企業は存続が不可能になる」ことを明示しておるんじゃな。なんで実は大変重要な機能なんじゃ。それで「企業の目的」に繋がっていくんだの。
「企業の目的は顧客の創造」って言い切っているところが、スゴク分かりやすいかもね。
「企業とは何か、を決めるのは顧客のみである」のところと、「企業の基本的機能=マーケティングとイノベーションだけである」は忘れないようにしますね。
それは良い心掛けじゃの。
「顧客を創り出す」ってことで、「アイドマ(AIDMA理論)」なんだね。
図1 Purchase Funnel(第14回より再掲)
「ファネルマーケティング」という表現を使ったが、とにかく新たなお客さんを探し出すことに知恵を絞らないといかん。多くの潜在顧客の中から、自社の特徴を一番理解し魅力を感じてくれるお客さんを見つけ出すのがファネルマーケティングじゃ。B2CでもB2Bでも世の中の顧客獲得手段はほとんどこの考え方でできておるんで、是非覚えてほしかったんじゃ。
今、流行っている「マーケティング・オートメーション」もこの考え方を応用しているんでしたね。
ここでは著名なM.ポーター先生の「企業戦略論」とJ.バーニー先生の「RBV(リソースベーストビュー)理論」とを対比し、競合優位を勝ち取る幾つかの方法と、競争力には企業内部の経営資源(リソース)と持続性が重要である、という考え方に触れてみたんじゃが、難しかったかの?
ここ難しかったなー。2つの理論が対立しているって言うけど、結局どちらが適切なんだろう?
以前話した「3C(自社:Company 市場の顧客:Customer 競合:Competitor)」を思い出してみるとよかろう(シェルマガvol.34掲載の第11回にて解説)。
図2 マーケティングの検討要素(3C) (第11回より再掲)
それぞれを分析するのはマーケティングの基本じゃった。これらの環境の中で自分が最も有利な立ち位置を選んで戦うことが競合優位に繋がる、という考え方がポーター先生の経営戦略理論で、だから「ポジショニング理論」と言われておったんじゃ。しかし、ここには従業員の創意工夫とか切磋琢磨、努力して熟達度や能力を上げるといった概念が存在しない。そこでバーニー先生の企業戦略論では、競争優位の源泉はこうした業界環境やポジショニングではなくて、企業内部の「ケイパビリティ(能力)」に着目したところが画期的だったわけじゃ。
それなら内部の能力を向上させようとする意識が芽生えてきますよね。
そうなんじゃが、ポーター先生の戦略論は「外部的な要因に注目」していて、バーニー先生の戦略論は「内部的な要因に注目」している。ということで両者補完関係にある、と考えておくのがオススメなんじゃな。
ここでは企業がグローバルに進出する背景と、幾つかの成功例、失敗例に触れて海外で成功するポイントを考えてみたわけじゃ。海外では著名グローバルブランド(コカ・コーラやP&Gなど古くから世界的に事業展開している企業)が先行し、歴史の浅い日本ではこれらの企業を規範として手探りで海外展開してきた企業が多いんじゃ。
でも海外でもトップシェアの会社も多かったよね。
確かに、それこそ他社が簡単に追随できない技術で高いシェアを獲得した企業が多いことに触れたわけじゃが、その半面失敗例もあるから、「①訴求ある独自製品」、「②価値とコンセプトを伝える」、「③技術信仰の打破」、「④販売志向からの脱却」、「⑤ブランディング」の5つを成功のポイントとして挙げたの。
この5つを実践しながら、米国のIT企業のように起業時点から海外展開を当然と考えられれば、成功する可能性が高まるのかもしれませんね。
そうじゃのー。じゃが、日本企業もゆっくり海外展開していられない状況になってきたのかもしれん。
なんで?
中国の「BAT(百度 Baidu,阿里巴巴 Alibaba,騰訊 Tengxun)」と呼ばれる三大ネット企業が米国の先進スタートアップ企業を爆買いしておるというんじゃ。*1
*1:出典:「中国の3大ネット企業が米ハイテク企業を爆買い」週間東洋経済 2017年4月8日号
中国の「BAT(百度 Baidu,阿里巴巴 Alibaba,騰訊 Tengxun)」に通販大手の京東集団を加えた4社が過去2年間米国ハイテクベンチャーへ投資した額は56億ドルに達し、シリコンバレーを含むカリフォルニア州では総額の4分の3以上を占めた。投資先はAR(仮想現実)、SNS、サービス、モバイルセキュリティなど多岐にわたり、米テスラにも18億ドルを投資。中国で成功した企業がイノベーションを吸収し、いずれ先進国企業を追い抜くかもしれないと予想する専門家もいるという。
今度は米国で企業を爆買いかー。お金持ちなんだなー。
M&Aで技術と人材を一手にする戦略ですね?
中国にも起業時点で世界を視野に置いている会社が多くなっておるようじゃの。多額の投資が奏功するかはわからんが、たしかにグローバル化のスピードも早くなっておるようじゃ。
ここでは「ブランド」を確立するとどんな効果があるのか、さらに「ブランド構築のプロセス」にはどんな考え方があるのかを紹介したの。ブランド価値を、顧客だけでなく関係する従業員にも浸透させることの重要性にも触れてみた。
「①ブランドポジショニング」、「②ブランドマーケティングプログラム」、「③ブランドパフォーマンス測定」、「④ブランド・エクイティの育成と維持」の4段階で進めるのでしたね。
図3 ブランド構築のプロセス(第21回より再掲)
ここで最も大切なことは「ブランディングは、トップが強い意思と長期的な展望を持って実行すること」なんじゃよ。
「市場における自社ブランドの価値と存在意義をしっかり提示する」のが社長の役割でしたね?
ところが、ほとんどの日本企業ではこの大切な仕事を、マーケティング部門や広報部門などの一部の部門に任せてしまっているのが、残念ながら現実なんじゃな。
ブランド価値を社員に浸透させる教育や組織づくりも考えないといけないんだったね。
現在盛んに言われ始めた「顧客経験価値(CX)」がなぜ重視されているのか、顧客経験価値はどのように分類できるのか、さらにマーケティングに顧客経験価値を取り入れる方法について事例とともに紹介してみたの。タケシ、なぜ顧客の経験価値が重視され始めたのか理解したかな?
「モノより感動体験」でしょ!?
ハッハッ、一言でいえばそうなるわな。
前回やったばかりだからね!
以前にも触れたが今は「モノ余り時代」と言われてからかなり経つし、特に最近の若い者は物欲が乏しいとも言われておる。これも経験的ベネフィットが注目される背景になっておるようじゃ。
今「断捨離」する人も多いっていいますしね。
ボクなんか欲しいモノたくさんあるけどなー。
そして経験価値マネジメントのフレームワークを紹介したぞな。
「①顧客の経験価値世界を分析」、「②経験価値プラットフォーム構築」、「③ブランド経験価値のデザイン」、「④顧客インタフェースの構築」、「⑤継続的イノベーションに取り組む」、この5つのステップでしたね。
事例は興味深かったけど、「問題発見力」を養うことと、常日頃から「深く考える」習慣が必要なんだよねー。ボクはあまり得意じゃないなー。
バカモン!両方なければIT技術者として生き残れんぞなー。
フッフ、おか爺さん大丈夫ですよ、この前の新人歓迎会の余興はタケシさんがリーダーですごく考えて大好評だったんですよー!
ハッハッハ、それはイノベーティブだったんじゃの!良かったのー。
カンナちゃん、それは内緒!
さて、日本では一般的に「イノベーション」は「技術開発」と同等のもの、と誤解されていることが多いことは知っておるの。もちろん技術開発の結果がイノベーションに繋がることもあるんじゃが、イコールではない。そして「イノベーション」は企業の内部から生み出すものではなくて、顧客が意識しているしていないを問わず、「顧客の問題を解決した結果」がイノベーション、ということを忘れないように。
「マーケティングもイノベーションも顧客が起点」でしたね!
そうじゃ、カンナちゃんだけ合格!
ちょ、それはないでしょ!
次回からは「デジタル・マーケティング」について様々な
トピックを紹介していく予定です。お楽しみに!