シェルスクリプトマガジン

もしインターネットの1秒が1年だったら 第3回(vol.49掲載)

written by hakatashi・Mine02C4

編注:本記事は「SunPro 2016 技術書典」で発表された記事に説明・イラストを追加し、シェルマガvol.49に掲載したものです。
以下リンク先で、オリジナル版の全文が公開されています。
https://sunpro.io/techbookfest/

インターネットが日本中のあらゆる人間に行き渡るようになってから、すでに10年単位の時間が経過しています。今日においてインターネットを支えるネットワーク技術が重要であることは言うまでもありませんが、実際にネットワークでどのタイミングで何が起こり、どれくらいの時間が費やされるのかということを身を持って体感している人は、たとえネットワークに精通している人でも少ないのではないでしょうか? この記事では、1 秒というわずかな時間を1年にまで拡大し、ネットワーク上で何が起こっているかを人間スケールでざっくりと解説していきます。

はじめに

こんにちは。博多市(@hakatashi) です。前回、前々回に引き続き、2016年の技術書典にて発表した「インターネットの1 秒がもし1 年だったら」という記事を、シェルスクリプトマガジン向けに再構成してお届けします。この記事は、インターネット通信においてクライアントがサーバーとコミュニケーションする様子を、1秒を1年というスケールに引き伸ばし、クライアントとサーバーをそれぞれ「クライアントちゃん」と「サーバーちゃん」として、人間スケールに置き換えて順に見ていこうという企画です。
前回まで記事では、長くて面倒なTLSハンドシェイクの手続きを終え、サーバーちゃんとクライアントちゃんの間で暗号通信を行うための準備が完了しました。これで本題となる通信の内容を送るための用意は終了し、いよいよインターネットを通した2人の文通が始まります。クライアントちゃんにとっては100日以上も待ち続けた念願のやり取りです。果たして2人は無事に文通を行い、そして年内に終了することができるのでしょうか。引き続きお楽しみください。

サーバーちゃん   クライアントちゃん

HTTPリクエストとレスポンス

4月19日 午前9時26分 HTTPリクエスト送信

1ヶ月半に渡るやりとりによって、サーバーちゃんとクライアントちゃんとの間で暗号通信を行う準備が整いました。もはや2 人の世界を妨げるものは何もありません。これで少々神経過敏なクライアントちゃんも安心してサーバーちゃんに質問を投げかけることができます。
HTTPは、原則としてクライアントがサーバーに対してリクエストを投げて、サーバーがそれに対する応答を返すという、先程までのTCPハンドシェイクやTLSと比べてシンプルな仕組みで動作します。ネットワークの中でもかなり高レイヤーなプロトコルなので、リクエストの内容やヘッダーはプレーンテキストで表現され、人間が見てそのまま理解しやすいようになっています。
今回はクライアントアプリケーションとしてcURLを用いたので、HTTPバージョン1.1のシンプルなGETリクエストでパケットを送信しました。
クライアントちゃんは勇気を振り絞って、年が明けてからずっと聞きたかったことを質問しました。その内容はヘッダも含めて4行、文字数に直すと99バイトですが、TLSで暗号化することによって130バイト、イーサネットフレーム全体では184バイトと、実際に転送される情報としては倍近くになりました。ハガキは裏面しか使えませんからね。

 

4月28日 午前9時27分 HTTPリクエスト受信

クライアントちゃんから暗号化された秘密の手紙が届きました。サーバーちゃん側から見ても、最初にSYNパケットを受け取ってから2ヶ月という時間が経過しています。その間、Webサーバーとしての諸々の雑務をこなしながら、クライアントちゃんからの手紙を待ち続けていました。HTTPリクエストを受け取ったサーバーは、その内容を元にリクエストの解釈を行い、文脈に応じて何らかの適切な応答を返します。今回の測定ではデフォルトのApacheへのリクエストだったので、GETリクエストはシンプルにファイルの内容を取得するという処理となります。 手紙の内容を見て、さっそくサーバーちゃんは部屋の中(=ファイルシステム) から目的のデータを探し始めました。サーバーちゃんはファイルサーバーなので、探しものはお手のものです。

「アレでもない、コレでもない。どこいったの?!」