Written by 水間 丈博
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昔システム会社の役員をやっていたらしい。好奇心旺盛で意外とモノ知り。趣味は音楽(クラシックからJPOPまで!)と囲碁(有段者)。ちょっとした丘の上に住んでいるので「おか爺」と呼ばれている。やや奇怪な老人。
工業大学でITを学び、小さなIT会社に就職したITエンジニアの卵。社長に「マーケティングを学んでおけ」と言われている。近くにある母方の祖父、おか爺の家に時々遊びに行く。趣味はサイクリング。まだ彼女はいない。
タケシの後輩。大学では文学部で日本史を学ぶ。会社では広報部に配属された。
エンジニアのタケシは、社長からマーケティングを学ぶように言われ、会社の後輩カンナちゃんと一緒に近くに住む祖父「おか爺」の家に通い、マーケティングについていろいろ知識を吸収しています。これまでマーケティングの基本と実践方法を学んできました。今回から「デジタルマーケティング」がテーマです。
さて、今回から「デジタルマーケティング」の話に入っていこうかの。
「デジタルマーケティング」って最近よく聞くけど、今までのマーケティングとどう違うんだろう?
「デジタルマーケティング」とは、要するに「IT技術をマーケティングに取り入れること」じゃよ。
えーっ、それだけ?でも「デジタル」って言うけど、昔からあった電子メールとかもホントはデジタルだよね?
ハッハッハ、その通りじゃ。インターネットは、登場してすぐに広告で使われるようになったんじゃが、これまでは「オンラインマーケティング」とか「WEBマーケティング」と呼ばれていたものが、2013年ごろを境に「デジタルマーケティング」と呼ばれ出したんじゃ。
なぜ今さら「デジタル」って言い始めたのかしら?
それは一つには、スマホに代表されるデジタルデバイスの急激な普及と大いに関係がある。
スマホで、ネットショップでの注文とかクーポンが使えるようになったからかな?
そうじゃな、それは前からも使えたんじゃが、スマホの普及でますます便利になったのが大きい。2008年には世界で1億台以下だったスマホが今年15億台以上も出荷されると予測されておる。
もう一つ、アドテクノロジーの急激な発達がある。
アドテクノロジーって、オンラインで広告が出されることって聞いたことあるわ。
まぁそうなんじゃ、その仕組みも含めた言葉じゃの。これはちょっと前の状況なんじゃが、アドテクノロジーの全体概要図になるの。
Display Advertising Technology Landscape
出典:Jp chaosmap Hiroshi Kondo
http://www.slideshare.net/HiroshiKondo/jp-chaosmap-20142015
ちょっと複雑だけど、よく見ると知ってる会社やよく使うサイトとかもありますね。
中央上の「DSP(Demand Side Platform)」というのがオンライン広告の広告主側のプラットフォーム群(サーバ)、右端の「SSP(Supply Side Platform)」は広告を配信するメディア側のプラットフォーム群、この間にある「RTB(Real Time Bitting)」はこの両者を取り持つオークション事業者の役割で、一番高値を付けた広告主が広告を配信できるという広告入札の仕組みなんじゃ。例えば、消費者がPCやらスマホで画面を開いた瞬間にどのような広告を掲示するか、オークションで決めておるんじゃな。この取引が成立して広告が視聴者に表示されて完結するまで、その間50ms(1/20秒)といわれておる。
へーっ!なんか難しい言葉が出てきたけど、ボクがポータルサイトを開いたときに出てくる広告を出す仕組みはこうなってるのか?
DSPの下にある「DMP(Data Management Platform)」というのが、広告を見る人のネットアクセス履歴や嗜好性などのデータベースで、「デモグラ」という世代や性別ごとの一般的な特徴も含まれておる。これを拠り所に、見ている人への最適な広告を選択するサポートをしているんじゃな。
だから、ボクがPS4を買った直後にゲームの広告が増えたりするのかー。
私がネットを見ていると「若い女性向け」の広告が目につくけど、これもDMPが活躍しているためなんですね。
そうじゃ。現在のオンライン広告はDisplay広告といって、そのほとんどが視聴者個人の特性に応じて出し分けられておるんじゃよ。これを「パーソナライズ」といったりするんじゃ。
ネットを見た履歴からその人の興味や関心が把握されてるってことなんですね。ちょっとコワイ気もするけど……
ここのところ静止画よりは動画が多くなったが、この仕組みは2008年のリーマンショックの後に、ウォール街の金融業界にいた大勢の優秀なエンジニアが広告業界に移って金融取引の仕組みを広告に応用した成果といわれておる。
そうなんだー。
この、いかにもITテクノロジーを駆使した画期的な仕組みが日本にも導入されて、あっという間に広まったんじゃ。今はスマホ向けだけで年間3000億円の市場規模があるとされているんじゃが、広告主と消費者(視聴者)の間に様々なプレイヤーがおって、それぞれITを駆使して役割分担しつつデータを複雑にやり取りしておるんじゃ。
ホント様々な事業者が見えないところで仕組みを支えてるんですね。
だからこの図は別名「混沌マップ(ChaosMap)」とも呼ばれておる。プレイヤーの参入や脱落が多いんで日々変わることから名付けられたんじゃよ。
新しい業界の特徴なのかもねー。
さて話が長くなったが、アドテクノロジーをはじめとして、ここ3?4年の間にIT技術を駆使してマーケティングに活用しようとする動きが大変活発になったんで「デジタルマーケティング」と言われるようになったんじゃ。
ナルホドね。
といったわけなので、「デジタルマーケティング」には適切な定義もないし、国によって認識も違う。米国では今でも「オンラインマーケティング」と呼ばれているし、イタリアでは「WEBマーケティング」と同義で使われているらしい。しかし最近「デジタルビジネス」とかも言われ始めているから流行り言葉ではあるな。
「デジタル」という本来の意味を超えて使われ始めた感じですねー。
デジタルマーケティングが発展してきた背景をここで整理しておこう。要するにマーケティングにIT技術が用いられ出したのには社会的背景の変化が大きく影響しているんじゃ。
①スマホ・タブレットなどのデジタルメディアの普及:
消費者がこれらの道具を常時持ち歩くようになったことで、メディアや企業と直接に繋がるようになった
②新たな顧客への情報到達手段:
企業にとっては従来型到達手段(4大メディア広告、PCへのメール、PC向けディスプレイ広告、動画広告)に加えて、新たにスマホ、タブレット向けの到達手段が増えた
③即時性の進化:
今までは、“TVを見ている時”(CM、通販番組など)やPCの前に座っている時だけ、情報伝達や消費者アクションが実行されたが、それが消費者側の意思でいつでも好きな時に可能になった
④消費者が発信する情報のマーケティング活用:
ネットの視聴履歴や購買履歴、ソーシャルネットワーク、GPS情報などが発信されることによって、個客の興味や嗜好に関するデータをマーケティングに活用できるようになった
「リアルタイム」というのがキーポイントになったよね。スマホで簡単に商品を比較して、その時一番安いお店で注文できちゃうから、お店の競争も大変になったんだろうな。
そうね、TVと違ってどこでも好きな時にネットショッピングできるようになったし、SNSで発信することもできるから、以前よりも格段に双方向性が増したという点も大きいんじゃないかしら。
そうじゃな。まとめると、消費者つまりお客さんを取り巻く「ネット社会・到達手段(消費者の武器)・リアルタイム性・消費者発信情報」の環境が変わったことに対する、サービス提供者側のマーケティング実行方法の変化が「デジタルマーケティング」を生み出したともいえるんじゃな。
そうか、お客さんの環境変化が必然的にデジタルマーケティングに向かわせているのかー。
現在は「リアル(店舗)」や4大広告メディアだけでは競合が多い世の中で戦っていけないからの。
最近はテレビを見ない人も増えたって言いますよねー。
そうじゃ、既に20代以下ではTVよりネット視聴時間の方が多くなっておる。
そう言えば、私も最近TVはドラマしか見てないかも。