シェルスクリプトマガジン

ITエンジニアのためのマーケティング入門 第13回 (vol.36掲載)

Written by 水間 丈博

本記事掲載のシェルスクリプトマガジンvol.36は以下リンク先でご購入できます。

おか爺:昔システム会社の役員をやっていたらしい。好奇心旺盛で意外とモノ知り。趣味は音楽(クラシックからJPOPまで!)と囲碁(有段者)。ちょっとした丘の上に住んでいるので「おか爺」と呼ばれている。やや奇怪な老人。

タケシ:工業大学でITを学び、小さなIT会社に就職したITエンジニアの卵。社長に「マーケティングを学んでおけ」と言われている。近くにある母方の祖父、おか爺の家に時々遊びに行く。趣味はサイクリング。まだ彼女はいない。

カンナ:タケシの後輩。大学では文学部で日本史を学ぶ。会社では広報部に配属された。

第13回 マーケティングの実践 – その1 –

前回までのあらすじ

エンジニアのタケシは、社長からマーケティングを学ぶように言われ、近くに住む祖父「おか爺」の家に通い、マーケティングについて学んでいます。前回までマーケティングの基本的知識「STP」や「4P+4C」などを一通り学びました。これからはマーケティングの実践方法を学んで行こうと考えています。今回、おか爺の話を聞いて興味を持った後輩のカンナちゃんを連れてきました。

こんにちはー、おか爺。今日はお客さんを連れてきたよ!
初めまして、カンナといいます。タケシ先輩からおか爺さんの話を聞いて、私も聞きたくなって連れてきてもらいました!
それは、熱心なことじゃのう。これからタケシと遠慮なく遊びにおいで。それで今はどんな仕事を?
広報部に配属されたんですけど、入ったばかりでまだ仕事がよくわからなくて…。
広報部か?それは良かったのう。タケシにも参考になる経験がこれからたくさんできるじゃろ。ワシも少しは役に立てればよいがの。
はいっ!いろいろ教えてくださいね!
ところで、広報部は一般的にPRをやる部署なんじゃが、タケシ、PRの意味は分かっているかの?
PRって、文字通りプロパガンダ(PRopagada=宣伝)のことでしょ?…まてよ、プロモーション(PRomotion)のことだったかな?
プレスリリース(Press Release)の略なんじゃないかしら?
とほほ…残念ながら、二人とも間違いじゃ!PRはパブリック・リレーションズ(Public Relations)のことなんじゃよ。
パブリック・リレーションズ?なんか初めて聞いたなぁ…。
それも止むを得ん。世の中、「宣伝=PR」と認識している人が大部分じゃからの。その道の専門家でもこのように考えている輩がおる。これは勘違いなんじゃ。
そうだったのー!?
PRは20世紀のはじめ頃からアメリカで発展した考え方なんじゃが、「企業などの組織とその利害関係者(個人や集団、社会)と望ましい関係を構築するためのもの」というのが基本理念なんじゃ。ところが、日本に戦後導入された際に、民間企業で“PR”と略されたんで宣伝とほとんど同じ意味でしか使われなかったという経緯があるんじゃな。
広告会社をPR会社と言うのも、そういう事情だったのね。
PRで一般的に使われるのが「プレスリリース」で、これは新聞社など報道機関向けに記事にしてもらうことを期待して情報を配信するんじゃが、なかなか記事にしてもらえないのが実態じゃった。ところが、最近はWEBが発達したから、企業が「プレスリリース」と同時に「ニュースリリース」といった形で自社サイトで公式に発表することが多くなったのう。何より新しい商品を知る場としての報道機関の重要性が低下してしまったからの。
記者室向けに発表するなんて、まぁ時代遅れかもしれないよねー。

※1 パブリックリレーションズ(PR)広報と訳される。「組織体とその存続を左右するパブリックとの間に、相互に利益をもたらす関係性を構築し、維持するマネジメント機能(米国PRの教科書『Effective Public Relations』(邦訳名『体系パブリック・リレーションズ』カトリップ、センター、ブルーム3氏による)」と定義されている。さらに日本PR協会では、「企業、行政、学校、NPOなどあらゆる組織体が、それを取り巻く多様な人々(今日ではその組織となんらかの利害関係がある人々をステークホルダーと呼ぶ)との間に継続的な“信頼関係”を築いていくための思考・行動である」と補足されている。
公益社団法人日本パブリックリレーションズ協会 http://prsj.or.jp/shiraberu/aboutpr

最近の企業の「ニュースリリース」はかなり充実しておる。次のは、いい例かもしれん。

事例21:マツダのニュースリリースサイト

マツダの「ニュースリリース」サイトでは、2008年からニュース毎に写真のアイコンを入れ始め、最新ニュースへの誘因を促すアイキャッチとしている。ブランドサイトとしての一貫性が図られ、通常IR情報(株主や投資家向け情報)に属する情報へもこのページから直接アクセスできるように工夫している。

参考:http://www2.mazda.com/ja/publicity/release/2016/index.html

広報のページって堅苦しいイメージがあるけど、これはなんかカッコいいね。
綺麗にまとめられていて、思わずクリックしたくなる作りなのね。
北米で先に販売する新車のニュースが載っておるの。このページを訪れれば、たいていの最新情報にすぐにアクセスできるから、訪問者にとっては使いやすいサイトといえるじゃろ。では、“広報と広告の違い”はわかるかな?
うーん、広告はお金をかけるけど、広報はお金をかけないってことなんじゃないかな?
宣伝目的が広告、正確なニュースを周知するのが広報なんじゃないかしら?
うーん、まぁどちらも正解でよいじゃろ。PRの機能については?社会との共生、?企業の社会的認知の促進、?社会からの要望の採取、?自社を取り巻く社会環境の把握、?企業文化の構築と改革、といったものがあるんじゃが※1、分かりやすいように、広告とPRの違いを簡単にまとめておいた。参考になればよいがの。

表1:広告とPRの違い

なるほど。広告の浸透力が弱いっていうのは、すぐに忘れられやすいってことなのかしら?
そうじゃ。世の中広告があふれているからの。その一方でPRには信用度と客観性があるから、いったん注目されると印象に残りやすい面があるんじゃ。
たしかにそんな気もするよね。
さて、もう一つ事例を見てみようかの。

事例22:積極的なニュースリリースで過去最高の志願者数を獲得した近畿大学

近畿大学は2015年3月、「平成27年度一般入試志願者数確定過去最高の11万3,704人」というニュースをリリースした。これがプレスリリース配信サービス「News2u」社の月間ベストネットPR賞を受賞した。この背景には、「近大マグロの研究成果」をはじめ「完全ネット出願」、「教科書販売をAmazonと提携」、「初の女子応援部団長誕生」などメディアの興味を喚起するニュースリリースを配信し続けている地道な努力があった。時間をかけた継続的なニュース配信が過去最高の志願者数という成果につながった。その数は2015年度約360本。決め手は平成27年度入学式を近畿大OB、つんく♂がプロデュースしたことだった。その後入学式における「つんく♂無言の理由」が明らかになり、これも大きなニュースになった。平成28年度の入学式も“つんく♂プロデュース”が予定されている。

参考:月間ベストネットPR賞。2015年3月は「価値あるニュースを作り出し、オンラインで発信を続ける」近畿大学のネットPR事例が受賞!担当者からの受賞コメントを公開http://netpr.jp/netpr/models/17123/

これ、大学の入学式の案内?華やかで楽しそうだねー。
女子志願者も3万人を超えて過去最高になったのね。
ボクの大学生活は暗かったな…。
はっはっはっ!女子の前で何を言うとる!これから明るくしていけば遅くはないぞよ、タケシ!
うーん、そうだね。
さて、PRの話を見たところで、これからマーケティングをどう実践していくかといった話をしていこうかの。マーケティングの考え方を応用する方法には様々な考え方がある。いくつか代表的なものを事例とともに見ていくことにしよう。
それは勉強になります。楽しみっ!
「マーケティングの始め方」で習ったことが出てくるわけだね?
そうじゃな。新しい用語も出てくるじゃろ。前回までの話を縦糸とすれば、実践方法は横糸といったところかの。
ボクも楽しみにしてるよ!

 

ITエンジニアのためのマーケティング入門 第14回 (vol.37掲載)